上智大学における心理学教育は、現在、総合人間科学部心理学科および大学院総合人間科学研究科心理学専攻において行われています。学部の一学年定員は55名、大学院の一学年定員は20名(内訳は基礎心理学コース5名、臨床心理学コース15名)で、学生は合わせて数百人程度在籍しており、それを特任助教を含め13名の教員で指導しています。
心理学教育の伝統
上智大学における心理学教育は長い伝統をもっています。1976年に、文学部に心理学科が設置されました。1992年には、大学院文学研究科心理学専攻に博士前期課程が設置されました。1994年には、大学院文学研究科心理学専攻に博士後期課程が増設されました。2001年には、大学院文学研究科心理学専攻博士前期課程に臨床心理学コースが設置されました。2005年に総合人間科学部心理学科、大学院総合人間科学研究科心理学専攻が開設され、文学部心理学科および大学院文学研究科心理学専攻がそれらに移設されました。
上智大学においては、基礎心理学と臨床心理学の両方を学んでこそ心理学の学びが十全になるという考えのもとに、基礎心理学と臨床心理学の教育の両方を等しく重視しています。
専門職養成に関しては、公認心理師と臨床心理士の二つの心理職を養成しています。公認心理師は、総合人間科学部心理学科(学部)および総合人間科学研究科心理学専攻博士前期課程(大学院)において養成しています。上述のように大学院博士前期課程は基礎心理学コースと臨床心理学コースに分かれており、臨床心理学コースは日本臨床心理士資格認定協会の第一種指定大学院になっています。心理学の研究能力の基礎を養いつつ︑将来心理専門職として活躍するための実践的な教育を行うことが目指されています。
幅広い学び
臨床心理学に関心のある方は、上智大学の心理学というと、ユング心理学や精神分析などの深層心理学的アプローチを思い浮かべる方が少なくないかもしれません。本学の歴代教員および卒業生にはこれらの分野で活躍している方々が多く、本学の誇りであります。一方、本学における心理学教育においては、既に述べた通り心理学を幅広く学ぶことが一貫して重視されており、大学院臨床コースにおいても、研究法および臨床の基礎を幅広く学んでもらいます。臨床分野に関して言えば、本学では、ユング心理学、精神分析、認知行動療法、老年臨床心理学、コミュニティ心理学、人格心理学、がん心理臨床、小児科心理臨床などを専門とする教員が教鞭をとっています。
臨床実習は、東京都内を中心として、さまざまな施設で行われています。本学には上智大学臨床心理相談室が設定されており、臨床実習にあたって特に重要な役割を果たしています。
立地の良さは、上智大学が誇れることです。上智大学は東京のほぼ中心にあたる四ツ谷駅の目の前に位置しています。そのためもあってか、上智大学臨床心理相談室には、さまざまな方が数多く申し込みます。
ただ、都心に位置することもあって、キャンパスが手狭であることは否定できません。昼食時などは、キャンパスのメインストリートは学生で大変込み合います。ただ、このデメリットも、アットホームさを醸し出し、また教室への移動距離が少なくて済むというように、メリットとして考えることも可能かもしれません。
充実したケースカンファレンス
毎週行われるケースカンファレンスにおいて、大学院生は担当のケースについて、インテークのときの様子、セラピーのプロセスなどについて詳細に発表します。そのケースに何らかの形で関与している大学院の上級生も出席します。指導教員は、さまざまな質問やコメントをしますが、それは特定の考えにもとづくものというよりも、臨床実践の基礎として欠かせないものが中心です。それらはしばしば、クライエントの安全性にかかわるものであったり、見立てにかかわるものであったりします。表に出ている言葉や行動の背景にある心理的な動きに関する指摘も行われます。さらには、地域連携、家族への介入、心理テストの適応などについてのディスカッションも行われます。
私は精神医学と精神分析を専門にしていますが、カンファレンスでは、なるべく専門用語や専門的概念を用いずに、日常の、平易な言葉を用いてクライエントについての話を院生たちとするようにしています。
以上のようなケースカンファレンスの雰囲気は、上智大学における臨床心理学教育の方針を反映しているものだと思います。本学においては、偏りのない、質の高い臨床実践とその指導を行っていくことに対するコミットメントが教員全員によって共有されています。
心理分野で活躍している上智大学の卒業生は非常に多く、上智大学の心理学コミュニティは卒業後のさらなる成長の支えになっています。そのような環境で教育に携わることができていることを私もありがたく思っています。