天理大学での心理臨床家養成は、人間学部人間関係学科臨床心理専攻と大学院臨床人間学研究科臨床心理学専攻で行われています。公認心理師と臨床心理士のいずれのカリキュラムにも対応しており、大学院は、「公認心理師養成機関」であると同時に、「臨床心理士資格認定協会第1種指定大学院」です。
 現行定員は、学部30名、大学院八名ですが、来年度より学部は人文学部心理学科(定員40名)となり、3年次からは資格履修モデルと対人社会履修モデルに分かれる予定です。

伝統ある臨床実践

 天理大学の心理臨床教育は、1992年に人間学部人間関係学科臨床心理専攻が誕生し、2004年に大学院臨床人間学研究科が設置されて、本格的に始まりましたが、心理臨床の伝統ははるか以前の1955年にさかのぼります。当時、故河合隼雄先生を中心とする先生方が「教育相談室」を開設され、地域に根差した心理臨床活動を続けてこられました。その伝統は今でも受け継がれ、本学は地域との深い結びつきの中で心理臨床を行っています。また、箱庭療法が日本ではじめて導入されたのは本学であり、付属カウンセリングルームでは当時の箱庭がそのまま現在も使われています。

少人数教育による、体験的理解に基づく心理臨床教育

 こうした風土のなか、本学の心理臨床教育は、学生の体験的理解を重視しています。学部段階では、公認心理師科目で広く基礎心理学を学ぶほか、「臨床心理学入門演習」、「ユング心理学」、「精神分析学」といった独自の科目を配置、授業内で学生ときめ細やかに対話を重ね、概念の体験的理解を促すことに努めています。また「心理演習」では、ロールプレイを行い、その過程をディスカッションしますが、学生は自分の聞き方の癖に気づいたりするなど、心に残る体験型授業となっているようです。
 また、本学には箱庭が多く設置された実習室があり、学部授業のなかで、グループで箱庭を制作し、力動を実際に体験するようなアクティブラーニングを積極的に取り入れています。心理臨床家教育は学部段階での体験的理解が重要であるとの考えからです。
 さらに、カリキュラム外ですが、本学では学生の学外での活動が充実しています。天理市のみならず幅広い近隣地域と連携しており、希望する学部生は、多種多様な不登校支援活動等に参加、実際に子どもたちと関わり、当該市町村主催のグループスーパーヴィジョンに参加するなど積極的に学んでいます。また、同法人内の中学校での不登校支援に参加することもできます。今年度は、ある学年の学生の半数以上がこうした活動を希望しました。なお、困った局面では相談にのれるような担任制があることが、そのサポートに一役買っていると考えています。
 最後に、心理実習や大学院での学外実習の連携先が充実しているのも本学の特徴です。学部生は、天理教関連の病院や、児童養護施設、幼稚園・小学校、教育支援センターなどで実習体験を積ませて頂いています。これらの実習先では、本学の修了生が心理士として活躍しており、連携が取りやすい点も、教員としてはとてもありがたいことです。

充実した附属カウンセリングルームでの臨床実践とカンファレンス

 しかし何よりも、心理臨床家としての中心的なトレーニングは、大学院に入ってから実習する付属カウンセリングルームでのケース担当にあります。地域に根差した伝統のおかげで、本学のカウンセリングルームには様々な方が来談され、幸い、本学の大学院生は卒業までに最低でも三、4名のクライエントさんを担当することができます。
 電話申し込みにて院生が担当できるケースであれば、担当者を自発的に決定、インテークへと進みます。インテークが終わると、担当者はインテーク報告をまとめ、インテークカンファレンスで見立てや留意点などについて教員からコメントを受けた上で、ケース担当とスーパーヴィジョンが始まります。

 また、教育の根幹であるケースカンファレンスにおいて、院生は大学院在学中に発表する機会が4回程度あります。教員はさまざまな角度からコメントしますが、自分のよってたつ理論基盤を前面に出すのではなく、心理臨床家としての基礎に関わるコメントをすることが多いと思います。具体的には、心理テストの見立てや、クライエントさんの言動の背景にあるもの、箱庭やプレイの内容、心理テスト等に表れているこころの世界の理解、カウンセラーとの間で起こっていることをもとにしたクライエント理解等、大学院生自身が考える余裕を持てるようになることを目指して、ディスカッションします。また現実的な介入として、家族支援、多職種連携などについて検討することもあります。
 こうした日々の修練の成果の一つとして挙げられるのが紀要論文執筆です。本学では修士2回生時に、当事者の許可を得てケース論文を執筆、学外のコメンテーターにコメントを頂き、新たな学びの糧としています。それは教員にとっても新たな刺激となっており、その紀要論文について、学内でさらにディスカッションし、さらなるクライエントさん理解や臨床教育に努めています。

最後に

 心理教育の根幹となるとなるのは人と人との対面での対話であると考えます。コロナ禍でカウンセリングルームを閉めざるを得ず、オンライン授業しかできなかった時期は本当に苦しいものでした。その時期を乗り越え、通常の心理臨床活動ができることに感謝し、また院生ともども研鑽に努めたいと思います。

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