特集02: コミュニケーションツールと面接 メールだから出会える人、聞ける声がある——支援を届けるメール相談
著者 NPO法人OVA 清水幸恵
私はNPO法人で相談員として、2014年からメールでの相談を受けています。私が大学生のときはメール相談というものを聞いたことはありませんでしたし、もともと、精神科の病院など、対面で話ができる場所での仕事をしていたので、初めてメール相談を知ったときは、「そんな対人支援の仕事があるんだ!」と率直に驚いた記憶があります。未知の分野のメール相談ではありましたが、顔が見えぬクライエントの声に耳を傾けたいという思いで、思い切って応募して、メールでの相談業務に関わるようになりました。
メール相談の良さ
メールでの相談は、クライエントにとっては、相手の顔を見ずに反応も気にせずに話ができて、時間や場所の制約もなく、いつでもどこでも返信を送れる、少し手軽に連絡ができるツールだと思います。答えづらいことを尋ねられたときや気が向かないときは、答えないことや返信をしないということもできます。私達の相談活動では、匿名でも相談を受けていて、身近な人には言いづらいことや、顔を合わせて相談しづらいなと思っていることを、話しやすい場になっているように思います。
メールという場での人との関わり
クライエントの顔も年齢などもわからず、こちらの伝えた一字一句が消さぬ限り残り、もしかしたら返信をもらえないかもしれないというなかでの関わりは、不安にもなります。対面のように、そのときのクライエントの状態に合わせて言葉を選んだり言い換えられず、クライエントの状況は刻々と変わっているかもしれない、伝えた言葉をどう受け取られるかわからないなど様々な不安があります。
ただ、顔を合わせて話せる場で出会う場合と同じか、むしろそれ以上にクライエントを知りたいという気持ちがわいてくるようにも思います。クライアントからの初めてのメールでは、これまでのことや今抱えているつらさを多く語ってくれることもありますが、「つらい」「助けて」といった一言、二言ということも少なくありません。なかには、苦しい状況を抱えるぶつけどころがないような怒りから、メールが送られてくることもあります。
誰にも言えずに抱えてきた気持ちを話してもらえるように、ぶつけどころがないような怒りを感じるときも、「話せるところから、あなたの話を聞かせてもらえませんか」と言葉をかけていきます。「ここなら話せるかもしれない」「ここだったら気持ちをわかってもらえる」と思ってもらえることが、関わりの入り口と思います。
クライエントの語ってくれた内容だけでなく、文体、文量、行間、受信時間、メールアドレスなど様々な情報から、どんな思いや背景があって、言葉にしてくれたのかを想像し、クライエントの抱えている問題を把握していきます。文字で直接的に表現されていなくても、クライエントの語るエピソードから性格、コミュニケーションのパターンが垣間見れたり、知的な能力やその人らしさなどをイメージしていきます。気持ちを受け止めながら、クライエントの抱えている問題や思いについて問いかけていくことで、対話の場となって、クライエントの気持ちを言語化できたり、整理できる場、そして抱えているつらさを和らげるためにできることを話し合っていける場にもなっていきます。
メール相談を足がかりに現実の場へと進んでいく
ただ、いつでもどんなときでも、あたたかいメールが返ってくることは、本当にクライエントのためになっていくのでしょうか。いろいろなことを話せる安心な場所として、あり続けることは、クライアントの抱えている問題の解決につながっていくのでしょうか。
私達とのメールのやり取りのなかで、気持ちが楽になったり、問題解決の道を見つけてもう大丈夫と、こちらのメールを卒業していく方もいらっしゃいます。一方で、メールで聞いているだけでは解決しえない問題も多くあり、クライエントの周りにいる友人や家族、先生、先輩や上司に伝えていくことや、ときには心療内科や精神科、対面カウンセリングでの相談を勧めたり、自治体の相談窓口の相談を考えていくことも必要となってきます。匿名性の高いメールだからこそ、聞ける声を受け止めながら、現実の生活で話をしていける人や場所で相談をしていけるように橋渡しをしていくことが大事なことと思っています。
たった一通のお返事でも、「気持ちを受け止めてもらえて嬉しかった」「返信を見て涙が溢れてきた」「メールをして返信が来ると、気持ちが楽になる」とクライエントが語ってくれることがあります。メールというツールでつながって、気持ちを受け止められているのだと思います。寂しさや孤独を抱えたクライエントにとって、気持ちを聞いてもらえたという体験が、次に相談していこうという気持ちの後押しになっていくのだと思います。
メールでの文字だけの関わりで何がわかるのか、何ができるのかという疑問もあるかもしれません。メール相談はやり取りに時間がかかり、得られる情報も限られます。対面で話を聞けるほうが、その場でいろいろなことを尋ねられますし、例えば、表情や仕草、声のトーン、着ている洋服など情報量がぐんと増えます。それでもメールで相談を受けるのは、相談することへの恥ずかしさや抵抗感、人に弱みを見せることへの躊躇や怖さがあって、悩みをひとりで抱えて苦しんでいるクライエントの声を聞ける貴重なツールだからです。
そして、メールでの関わりでも、クライエントの抱えるつらさや苦しみに寄り添い、伴走し、これからを一緒に考えていくことができます。メールの返信が来なくなることもありますが、「何とかやって行けそうです。もう大丈夫です」と私達とのメール相談から先に進んでいくお返事をもらったときなど、クライエント自身の力を感じる瞬間が大きな励みにもなっています。
これから
私が初めてメール相談と出会ってそろそろ、10年。世の中はどんどんと変わって、コロナ禍を経て、ZoomやSkypeを使ったオンライン相談やSNS相談が、学生相談室、心療内科などのカウンセリング、自治体の相談窓口など、各所で行われるようになりました。世の中が変われば、人とつながるツールも変わっていくように思います。これからも新たなツールが出てくるかもしれません。
ツールは変わっても、クライエントを知りたい、関わりたいという気持ちを変わらず持っていることと、クライエントにとって使いやすいツールで話を聞いていくという視点は心理士にとっても、大事なものになってくると考えています。カウンセリング室で待っているだけではなく、カウンセリング室に来所することのハードルが高いクライエントの声を聞いて支援を届けていくためにも、いろいろなツールを用いて話を聞いていける心理士でありたいと考えています。