Xジェンダーとは
「性別二元論」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。この世には男性あるいは女性という二つの性別しか存在しないという考え方のことを指します。戸籍やトイレ、スポーツなど、あらゆるものが男女に二分されるのが当たり前になっているため、こうした考え方に名前があることに驚いた人もいるかもしれません。
Xジェンダーとは、この性別二元論にとらわれない性自認をもつ人のことを指します。具体的には、男性女性の間の性自認である中性、男性と女性の両方の性自認をもつ両性、特定の性自認をもたない無性、性自認が変化する不定性といった細かいカテゴリーがあります。なかにはホルモン治療や手術をして身体の性別を変えることを望む人もいれば、その必要性を感じない人もいます。Xジェンダーと一口に言っても、色々な人がいるのです。
Xジェンダーという言葉は、1990年代に日本で使われはじめたそうです。方程式で分からない数を "X"と表したり、未来の災害や事件が起こると予想される日を "Xデー"と呼んだりするように、未知のものを指すときにXという文字が使われることから、Xジェンダーと呼ばれるようになったといわれています。近年は書籍やテレビ番組でも取り上げられるようになり、Xジェンダーに関する研究も増えつつあります。
Xジェンダーを自認する過程
私は、Xジェンダーの人たちへのインタビューを通して、Xジェンダーを自認する過程について研究しました。そのなかで、Xジェンダーの人たちはXジェンダーであることを自認するまでに、同性愛やトランスジェンダーといったさまざまなセクシュアリティの中で、自分のセクシュアリティを探索していたことが分かりました。しかし、いずれのセクシュアリティにも自分は当てはまらないという違和感を覚え、自分自身をうまく表現する言葉を見つけられずに悩む時期を経験します。
そしてあるときXジェンダーという言葉に出会い、その言葉の良さに気づいたりしっくりくる感覚を抱いたりすることで、Xジェンダーを自認するようになります。Xジェンダーの人たちにとってXジェンダーという言葉は、それまで表現のしようがなかったセクシュアリティをもつ自分を、そのまま包み込んでくれる言葉であるといえるでしょう。
また、Xジェンダーの人たちのなかには、Xジェンダーを自認したあと、Xジェンダーという言葉にもとらわれなくなり、「自分は自分なんだ」と考えるようになった人もいました。Xジェンダーの意味の多様さに触れ、自分にとってのXジェンダーの意味を考えるうちに、セクシュアリティに縛られずにひとりの人間として生きていこうとする考え方に至ったのかもしれません。
Xジェンダーの可能性
Xジェンダーという言葉がもつ意味の幅広さや曖昧さから、「結局Xジェンダーとは何なのかよく分からない」という人も多いと思います。これからXジェンダーについての知見がより深まれば、その分からなさもいくらか解消されるかもしれません。しかし、そのよく分からなさがXジェンダーという言葉の良いところのような気もしています。Xジェンダーのあるべき姿というものはなく、それぞれがXジェンダーという言葉に自分の思いを託して使ってよいのではないかと私は考えています。"X"という文字が表すとおり、Xジェンダーの可能性は未知数です。
●参考文献
幸津拓磨・葛西真記子 (2023) 「Xジェンダーを自認する過程——インタビューを通して」日本心理臨床学会第42回大会