臨床心理士の養成
専修大学は、1997(平成9)年から、大学院文学研究科・心理学専攻・修士課程の臨床心理学領域が(財)日本臨床心理士資格認定協会の第一種指定校に指定され、臨床心理士の養成を行っています。これまでに、毎年10から14名程度の新入生が入学しており、ほぼ同数の修了生が臨床心理士の試験に合格して、臨床心理士として活躍しています。いくつかの大学では、公認心理師のカリキュラムが始まるとともに臨床心理士のカリキュラムを取り止めたところもありますが、専修大学では、臨床心理士の養成を続けていく予定です。
公認心理師の養成
公認心理師法の施行に対応して、専修大学も、人間科学部心理学科と大学院文学研究科・心理学専攻・修士課程の両方において、公認心理師になるために必要な科目の確認申請を厚生労働省と文部科学省に行って確認を受けた後、2018(平成30)年4月から公認心理師の受験資格取得に対応したカリキュラムを開始しています。
なお学部では、今後2020年4月の「心理演習」、および2021年4月の「心理実習」の科目開講に向けて、確認申請を行う準備を進めているところです。2018年度、2019年度においては、「心理演習」「心理実習」ともに、現行の科目を読み替え科目に当てて対応しています。
学部の1年生の定員は72名ですが、2018年度に4年次の実習科目を履修した学生は15名程度でした。学外施設における80時間以上の見学実習の確保、それも教員が授業の合間を縫って引率していくことは容易ではありませんでした。同じく、学生も授業のある期間中は参加するのが難しいこともありました。そのため、夏休み中に頻回に実施して対応しました。
一方大学院ですが、学外実習施設数を考慮して、公認心理師の受験資格取得を希望する院生数の限度を1学年10名としています。
実習は、1年次の後期「心理実践実習2A」(学内実習)・「心理実践実習2B」(学外実習)、と2年次の前期「臨床心理実習ⅠA(心理実践実習1A)」(学内実習・学外実習)、二年次の後期「臨床心理実習ⅠB(心理実践実習1B)」(学内実習)で対応しています。
巡回指導は、月に1回程度実施しています。
今後の課題
2018年度から公認心理師のカリキュラムが動き始めました。この一年間の経験を通して、いくつか課題が見えてきました。
㈠ 実習及び指導体制について
2018年度の状況をみると、学部の「心理実習」は、夏休み中の時間を有効に使って対応する必要があることがわかってきました。授業期間中であっても、授業のない時間に教員が学外施設に引率していくことになります。同じように、大学院の実習科目、特に学外実習の「心理実践実習2B」、「臨床心理実習ⅠA(心理実践実習1A)」を担当する教員は月に一回程度の巡回指導を行いますが、これも授業の合間を縫っての活動です。
筆者も昨年度「心理実践実習2B」を担当しましたが、9月から実習が始まった関係で、8月の夏休み期間中に事前に訪問することがあり、その後9月から1月まで、8コマの授業の合間を縫って、4か所の施設の巡回指導のために毎月19時間程度の時間を使っていました。このほかに、実習記録ノートの添削、事前・事後指導を行うと、授業時間内の指導だけでは足りないような状況でした。
このような状況を考えると、今後時間をかけて実習と指導体制を検討していかない限り、臨床系教員の研究時間は確保できないと思われます。
㈡ 卒後研修
この小論のタイトルは「心理臨床家の養成」です。筆者は、「心理臨床家」というところにやや引っ掛かりをもちました。というのは、大学で臨床心理士や公認心理師の養成の一部を担うことはできたとしても、心理臨床家の養成まではできないのではないかと疑問を持ったからです。柔道初段を取ったとしても、だれも「柔道家」とは認めてくれないと思います。何段をとれば「柔道家」として認めてもらえるのかはわかりませんが、二段、三段程度では無理だろうと思います。私たちが大学と大学院の6年間でかわったとしても、心理臨床の初段や二段程度ではないでしょうか。となると、「心理臨床家」を育てるには、大学院修了後の、あるいは、臨床心理士や公認心理師の資格を取得した後の継続した研修が必要です。大学院の修了生が集って勉強会を
したり、グループスーパーヴィジョンを受けたりしていることは知っています。中には個人的にスーパーヴィジョンを受けている修了生もいます。しかし、それだけでは十分とはいえません。そのため、充実した卒後研修を行って心理臨床家を育てるには、私たちは大学を超えて、また学会と相互に連携して卒後研修の体制を作っていく必要があると考えます。