こどもとセラピストの関係性の機微に触れながらプレイセラピーを体験できる本

 心理臨床を学ぼうとする初学者にとって、特に難しいと感じるのはプレイセラピーではないでしょうか。実はこの本は、タイトルはプレイセラピーですが、こどもの臨床をする初学者の方にはぜひお薦めの本です。

 こどもの遊びの中で展開されるこどもたちの世界を、どんな風に読み取ったらいいのか、そしてその彩られた世界をどう理解し、応答することができるのか、どこまでをことばにしてどこまでをことばにしないのか等、こどもの臨床を経験した心理専門職であれば、こういった疑問に誰でもぶつかるものではないでしょうか。


 著者もこの本の中で述べていますが、「私たちは誕生後、一年ほどはことばをもたない世界にいながらも他者と豊かなコミュニケーションを交わし、やがてことばの世界に移っていく」というように、プレイセラピーの本質は人の営み同様に、ことばを獲得する以前の原初的な体験が中心に据えられていると考えられます。そしてそれを前提に考えるならば、ことばにして表現すること自体
が非常に難しいことであり、「到底不可能・でもやるしかない」という葛藤を避けることができないものなのだと著者自身も語っています。


 そのような矛盾や葛藤を孕むプレイセラピーの本質に、ことばを用いて表現し、迫ろうとする著者の姿勢に、心をわし摑みにされる感覚を読者の方は持つのではないでしょうか。

 私がこの本に出会ったのは、プレイセラピーを他の専門職に説明しなければならない時でした。当時私は児童養護施設で働いていましたが、プレイセラピーを説明すると、どうもしっくり来ない。「こどもと外で遊んでいるのと何が違うの?」と言われたことに、うまく説明できない自分がもどかしく感じたのを今でも鮮明に覚えています。自分自身の理論的なバックボーンの乏しさと、感性の乏しさに直面せざるを得なかったのです。

 この本は「プレイセラピーとは何か」という本質的な問いに始まって、日本のプレイセラピーの現状や課題、海外との比較などが述べられています。特にプレイセラピーの中でのことばの取り扱いについて、日本の文化を前提に置きながら〝ことば〞の本質について書かれていることは、初学者にとってはとても有用なのではないでしょうか。
 そして、この本にはいくつかの事例が登場しますが、「通常ならば見逃されてしまうような、ことばで表現するのが難しい“someting” にも積極的にスポットライトが当てられています。平易なことばで語られていることとの相互作用で、読者自身が、セラピストとこどもとの関係性の機微に触れているような感覚を得ることができるでしょう。
 著者は、こどもの世界を理解するために「訓練された主観性」という感覚をとても大切にしていますが、まさにこの本を読み終えた時に、あなたの主観性が少しだけ豊かになっていることを感じるのではないでしょうか。

広報誌アーカイブ