アマチュアとしての相談とプロによる心理臨床

 人から相談された経験がない人はいません。友人や後輩、あるいは職場の部下や同僚、さらには夫や妻や息子や娘からの相談、部室やオフィス、リビングやファミレス、喫茶店等の場で日常的に行われている相談、こうしたいわばアマチュアとしての相談は誰もが日常的に行っているものです。しかし、カウンセリングや心理療法といったプロによる心理臨床となると話は別です。いうまでもなく、プロによる心理臨床は、アマチュアによる相談の延長線上にあるものではありません。

プロの心理臨床家としての最初の一歩

 学部や大学院を卒業、修了し、さまざまな領域で心理臨床の第一歩を踏み出す際、特に学部卒業後公務員心理職についた場合や大学院を修了しても勤務先が一人職場であったりする場合には、日々手探り状態で、自信が持てず、大変心許ない状況となることも少なくないでしょう。またクライエントから、「臨床心理士(公認心理師)って何をする人ですか? お医者とは違うのですか?」
「プレイセラピー(遊戯療法)とは何ですか? 子どもが家や近所で遊ぶのとどこが違うのですか?」「面接時間に遅れてしまってすみません。相談時間を延ばしてもらえますか?」「拝み屋さんに行って拝んでもらったら、私の問題は先祖の霊が迷っているせいだと言われました。先生はどう思われますか?」「心理療法を始めてから治るまでにどのくらいかかるものですか?」「失礼で
すが、先生はおいくつですか? 結婚しておられますか?」などと問われた際、とっさに言葉が出ずに返答にまごつくこともあるかもしれません。

バイブルとしての一冊

 臨床心理士や公認心理師によるプロの心理臨床が、アマチュアの相談とはどのように異なるのか。心理臨床家がプロとして心理臨床を行う上で備えておくべきさまざまな知識が本書には凝縮されています。

 「心理臨床家とは何か」。本書は心理臨床家の定義や職業アイデンティティのテーマから始まります。心理臨床家を目指した動機や心理臨床家の倫理の問題も含め、心理臨床家の心構えについて論じられています。また、インテーク面接や各種心理検査を通じて行われる心理アセスメント、成育歴の整理やアセスメント結果のフィードバック、心理療法における面接契約や時間、場所の枠組み(面接構造)の重要性、守秘義務、さまざまなクライエント(発達段階・病理水準)に対する面接の留意点、終結、記録の書き方、さらには紹介状の書き方に至るまで、心理臨床の営為の指針が詳細に示されています。
 また本書の後半では、先に挙げたような臨床の場面でよくみられるクライエントからの20の質問に対する応答例も示されています。加えて、向精神薬、心理支援に関連する各種法律や制度、各専門機関の概要についても丁寧に説明されています。
 本書は、学部生や大学院生が心理臨床のイメージをつかむための最初の一冊として、また大学や大学院を卒業、修了し、心理臨床の第一歩を踏みだす際のバイブルとして、さらには中堅の心理臨床家が自らの臨床を振り返り基本を再確認する作業を行う際の一冊として、おすすめの本です。

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