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彼女たちのコンセプトは「個性や自由ではみだしていく」でした。彼女たちは本来「はみだす」というネガティブな言葉をポジティブに使いこなし、大活躍しています。
私も心理職から「はみだし」、鍼灸師の資格をとり、目下、猛勉強の毎日です。ゆくゆくは心理学と東洋医学を融合し、新しい治療体系をつくり、来談者の役に立ちたいと思っています。
はみだして何が悪い
今日本は、長引く不況、政治の不安定、天災や疫病など、様々な原因で閉塞感につつまれています。心身共に疲弊し、余裕がない人が増えています。ネットで国内外の情報を大量に知ることができ、自由に考える材料を手に入れられるようになりました。その反面、社会の管理が進み、同調圧力が強くなり、他者に対しての寛容さを失っている人が増えています。
そんな中で、私が心理士として、鍼灸師として治療の場で出会う人々は、ある意味、現在の社会、教育、医療、福祉の制度からはみ出している人、と言えるかもしれません。そのような場で、画一的に分類し、レッテルを張ってマニュアルで支援、治療していていいのだろうかと疑問に思います。
「多様性を受け入れ、尊重する」とよく言われていますが、実際は、反対方向に進んでいる気がします。
さらに、心理業界では、公認心理師という国家資格ができ、保険医療に組み入れられようとしています。しかしこれは、心理職が医師の下請けのようになり、公認心理師の自主性、独立性が脅かされていくように感じます。他の専門家との協力は必要ですが、なぜ、心理職の臨床に医師の指示・同意が必要なのでしょうか。
これは、心の健康を保ちたいと支援やサービスを求める来談者、患者の選択の自由が奪われることにならないか。状態にあった高い専門性をもった専門家に出会うまでに、来談者自ら探し求めなければならない苦労を負うことにならないかと考えます。これでは、良い意味で「はみだしていく」余地がなくなってしまいます。
どこが違うの心理士と鍼灸師
今回のこのテーマを聞いた時、この2つはあまりに違うので直ぐには答えがみつかりませんでした。まるで「人間とペンギンはどこが違うの?」と聞かれているようなものです。
心理学は心を科学する学問です。東洋医学は人間を1つの有機体として心と体を分けずに丸ごと治療していく医学です。
心理士は主に言葉で治療をしますが、鍼灸は言葉も使いますし、鍼をはじめ様々な治療道具を使います。鍼灸師は心にまつわる専門職ではありません。仕事の中で心にもまつわりますが、心を専門としているわけではないです。私の中では心理学は、東洋医学の一部分であると考えています。したがって2つは切っても切り離せないのです。
一方で、心理学は心の科学、心の理論をもとにしてつくられてきました。それが私たちの文化に合っているのか。治療原則や臨床的原則を重視しすぎて頭でっかちになり、他の考え方や方法に対して不寛容になっていないか。来談者や患者の本来の願いやニーズが見えなくなっていないか。それらが心を専門にしすぎることの弊害として起きていないかと考えます。
「また来たい」と思ってもらえるように
心理士と鍼灸師の共通点は、人の支援、治療を行っているということです。人を対象としています。共通して大事なことは「来談者、患者の困りごとを解決、改善し、相手にまた来たいと思ってもらうこと」だと考えます。仕事を通して考え続け、現在私の中で「来談者、患者が自分で自分の困りごとを解決、改善できるように支援、治療すること」も目指すことの一つとなっています。「また来たいなと思ってもらえるように」。この言葉は、臨床心理士と鍼灸師の二足のワラジを履こうと東洋医学を勉強し始めていた時に、ある先生に質問して返ってきたアドバイスです。
カウンセリングも鍼灸治療も多くの場合、自費治療になります。相手に「二度と来たくない」と思われたら、成り立たない仕事です。これはあらゆる商売、サービス業で共通することです。「また食べたいなと思ってもらえるように」「また使いたいなと思ってもらえるように」「また読みたいなと思ってもらえるように」。心理士も鍼灸師もどちらも来談者、患者との信頼関係を作ることが大事なのは同じです。そしてこの信頼関係を作るには、支援者の「心技体」を向上させることが大切です。
「心」:自身の心の成長、人格、人間力を育てること。哲学を学び、信念と良心に従って生きること。相手への思いやりを持ち続けること。
「技」:技術や知識を向上させ、経験を積むこと。衛生も含め、治療環境を整えること。来談者や患者が納得できる説明や関わりを持つコミュニケーション力を高めること。
「体」:自分自身の健康や体力を保つこと。身だしなみや雰囲気を整えておくこと。来談者や患者と共に笑顔になること。
と考えます。
10年後に残る仕事
生成AIの発達の速さは驚異的です。すでに診断技術では、人を凌駕しているかもしれません。昨年の11月末に、経営の神様と言われた松下幸之助氏を生成AIで再現というニュースをみました。産業界だけではなく、各分野の偉業をなした方々の言動、その分野に必要な情報を学習した生成AIが開発され、それぞれの職種で利用される日も近いと思います。
心理学や東洋医学はAIが苦手とする感情や感覚的なものを重視するので直ぐにではないにしても、いつかはとってかわられると思います。ある中国の老中医師が、中国医学の極意は「臨機応変にある」と言われたそうです。違うもの、違う考えを受け入れる柔軟さと寛容さこそ心にまつわる専門職にとっても大切になるのではないかと考えます。
私は、AIを拒否するのではなく、上手く利用し人間ならではの支援や治療の在り方を考えていきたいです。そのためには、私たちは、あらゆる枠や境界を越えて、最初にはみ出していくファーストペンギンのような勇気と意志をもたなくてはならないと思います。
生活していくためにお金を稼ぐことは大事なことです。しかし、お金に振り回され、職業を分けてどっちが稼げるかと考えている場合ではありません。心理士と鍼灸師、どちらも来談者や患者のための仕事です。広い視野と寛容な心を持って仕事に取り組み、自己を磨いていけば、何をしていても10年後にも通用する人になれると信じます。