Serial Articles WORLD MAP 海外のプレイセラピーの資格や関心トピックの紹介
著者 ファミリーメンタルクリニックまつたに 湯野貴子
はじめに
プレイセラピーという心理療法の一つの方法があります。遊びが心に良い作用を及ぼすことを活用した心理療法なので、遊び(遊戯)療法と呼ばれたり、プレイセラピーと呼ばれたりします。遊びが発達に大きな影響を与える時期を過ごしている子どもの心理療法として選ばれることが多く、子どもの心を扱う医療、福祉、教育など子どもの成長発達を助ける場所で広く活用されています。大人も子どもも心理療法の基本は同じなのですが、言葉だけではなく、遊びを通して心を理解し、気持ちのやり取りをする、というところにプレイセラピストの専門性があり、大人の心理療法とは異なる知識や技術が必要になると考えられています。今回はその専門性を育むための訓練や資格、どんなことがプレイセラピーの関心トピックになっているかについて、海外のいくつかの国を例に見ていきたいと思います。
海外のプレイセラピストの訓練と資格
プレイセラピストの専門性を育む試みとして、まず、米国の「AssociationforPlayTherapy(米国プレイセラピー協会、以下APT)」を見てみましょう。米国に本部のある学会ではありますが、国を超えて学会員になることが可能な国際学会として知られています。1982年に発足し、現在5,500人以上の会員数で、アメリカ国内だけではなく、日本を含むアジア各国、ヨーロッパなどの全世界に会員がいます。国際的なプレイセラピー学会として、最も古く、最大の規模のもので、毎年1回の年次大会、そして学会誌やニューズレターの季刊発行、訓練機会の提供、資格認定など、幅広く教育、研究、ネットワークなどに寄与している学会です。APTが推奨する訓練や認定資格基準の内容を見ると、プレイセラピストにとって必要な知識や経験を垣間見ることができます。例えばAPTは、大学院の1年間のプレイセラピー講義で扱うべきトピックとして、プレイセラピーの歴史、さまざまな理論アプローチ、遊びの治癒的な力の理解と活用、子どもの発達的ニーズの理解とアセスメント、おもちゃや部屋などの構造づくり、他機関や他職種との連携、プレイセラピーの始まりと終結のプロセスの理解、子どもとの心理療法における関係づくりの理論や技法、プレイセラピーの倫理、多様性とプレイセラピー、保護者や養育者との関わり、などを挙げています。プレイセラピストはさまざまな知識をしっかりと学ぶことが推奨されていることがわかります。
こういった学びを経て、APTはプレイセラピストの資格を3種類認定しています。Registered play therapist(登録プレイセラピスト、RPT)は、大学院修士以上で、メンタルヘルスに関わる免許を取得し、標準的なプレイセラピーの訓練やプレイセラピーの経験を一定の時間数修めた場合に認定されます。それぞれかなりの時間数が必要要件として求められるため、2年以上の期間をかけて取得が可能です。さらに上級の資格として実践指導の訓練を受けることで認められる Registered playtherapist-supervisor(登録プレイセラピストースーパーバイザー、RPT-S)、また他には学校におけるプレイセラピーのスペシャリストとして School-Based Registered play therapist(学校ベースのプレイセラピスト)の資格もあります。
イギリスにも British Association for Play Therapists(BAPT)というプレイセラピストのための協会があり、資格の認定、訓練基準の設定、訓練の提供などをしています。BAPTでは、協会が定めたプレイセラピスト養成課程を提供する指定大学院修士課程修了者(3 年間)に資格を認定しています。課程内容は、APTが指定している訓練と類似していますが、それに加えて、子どもを直接観察する実習、プレイセラピーの事例や理論などについて修士論文をまとめることが必須の、高度な資格となっています。
アジア諸国では、韓国、台湾などにもプレイセラピストの資格があります。韓国にはKorean Association for Play Therapy(KAPT)という協会があり、資格の認定や訓練機会の提供を行っています。KAPTによる資格は、APTのものとは少し異なり、知識や経験に合わせた試験を受験し、その合格によってレベルごとの資格が得られるようになっています。台湾のAssociation for Taiwan Play Therapy も同じく資格の認定や訓練の提供をしており、資格基準内容はAPTの内容に準じています。
日本国内でも「東京プレイセラピーセンター」が認定プレイセラピスト、認定プレイセラピスト・スーパーバイザーの資格を定めており、APTの資格内容に準じたものとなっています。日本では長らく資格がなく、海外の認定資格を取る以外に道はなかったのですが、日本でプレイセラピーの臨床を積み重ね、学びを続けてきたことを認定するものとして、プレイセラピストの皆さんの動機づけおよび質の高いプレイセラピーを身につけることに役立つ資格内容となっています。いずれの国の資格や訓練課程を見ても、プレイセラピストには、質の高い学びが必要であることがわかります。
海外の学会の関心の傾向について
海外ではどんなトピックに関心が持たれているのでしょうか?例えば、APTの学会では、脳機能や脳神経発達とプレイセラピー、発達の多様性・多文化性とプレイセラピー、遊びを使ったスーパービジョン、親子関係や愛着に焦点を当てたプレイセラピー、テレビゲームやテクノロジーとプレイセラピー、などの新しいトピックの発表が近年見られます。トラウマ、虐待などの、さまざまな問題に対する多様なプレイセラピー理論アプローチや技法も常に取り上げられているトピックです。また、APTの学会誌を見ても、プレイセラピーを教育の場でどう活かすか、親子関係のプレイセラピー、屋外で行うプレイセラピー、オンラインのプレイセラピーなど、現代的で多様なトピックが、アメリカ国内にとどまらずさまざまな国から投稿されていて大変興味深いです。
最後に、海外の研修、特にAPTの学会に参加すると、学会の雰囲気がとてもプレイフルで、遊び心に満ちていると感じます。学術書と並んで、プレイセラピーで使えるおもちゃがたくさん販売されるのも恒例で、遊び心がくすぐられます。この学会は、6日間で70ほどの多種多様な発表があり、参加者は自分の興味関心に応じて好きなものを選択しますが、その全てが受け身的に聴講するというものではなく、遊びを含んだワークショップやディスカッション形式であることが最大の特徴です。学ぶ体験そのものが、遊びの体験と深く結びついており、楽しさだけでなく、自分自身の内面が刺激されるワクワクドキドキがそこにあります。つまり、プレイセラピーとはどのようなものかを、セラピスト自身が体験を通して理解することが大事にされている土壌があるのだと感じます。