就実大学と「就実臨床」のあゆみ
就実大学は、JR山陽本線岡山駅の東隣「西河原・就実」駅のすぐ目の前、とても通学しやすいロケーションの私立大学です。就実学園は「去華就実」という内面の豊かさや社会で役立つことを大切する教育を続け120年の歴史がありますが、心理臨床家の養成の歴史はまだ短く、2015年に大学院(教育学研究科・教育学専攻・教育臨床心理学コース)が、臨床心理士の第一種指定大学院として認められました。コース定員6名に心理臨床系の教員8名のアットホームな環境で、臨床心理士と公認心理師の二資格の養成を行っています。
大学院立ち上げ以来、それまで岡山県の心理臨床をリードしてきた山本力先生(現:就実大学名誉教授)の下、大学院生の声も聴きながら試行錯誤を重ねてきました。これまで、大学入学後の4年間、公認心理師の学部課程を学ぶ場は、教育学部・教育心理学科でしたが、2025年春に心理学部・心理学科として新たにスタートし、心理学の学びがさらに広がったところです。
就実心理臨床センターでの心理臨床トレーニング

耐震化のためにリニューアルした就実心理臨床センター・心理教育相談室(相談室)は、プレイルーム(2室)、面接室(4室)、カンファレンスルームとスタッフルームと倉庫のある使いやすい作りとなっています。院生のトレーニングの中心は、相談室でのケース担当、実際に相談に来られる地域の方のカウンセリングやプレイセラピー(遊戯療法)をセラピスト(治療者)として担当することです。地域の小児科やスクールカウンセラー、また相談室の利用者から紹介された方も来談され、年間の相談件数(延べ)は400件余り、来談者実数は40〜50名です。院生は、修士1年の前期から電話受付実習を続け、相談室のスタッフや臨床の環境に慣れた後、プレイセラピーや青年期のカウンセリングを中心に、2年間で原則3ケースを担当していきます。
スーパーヴァイズとケースカンファレンス
ケース担当が始まると、院生は専任教員にスーパーヴァイズ、毎回の担当ケースの詳細を報告し安心して対応を続けるための指導を受けます。また、カンファレンスではケース発表を行い、心理臨床の腕を磨いていきます。本学の臨床系教員は、精神分析、認知行動療法など専門性は様々で、現役の臨床家でもあるので、院生は様々な方向からの意見をもらうことができます。また院生からの質問や意見も活発に出されます。修士1年の初めの頃は固くなっていますが、徐々に感じたことや思ったことを率直に言えるようになります。『いつもまずは聞いてくれる雰囲気があって』発言できるようになり、『どうしてその質問をしたのかと、質問の意図を聞かれるから、考える、そこで考えて、発言する』ことを重ね『今も職場で発言できる』と卒業生が語っています(『』は卒業生の語り)。質問することで自分自身の理解だけでなく、場全体の理解が深まるという体験を重ね成長していきます。教員は専門が違っても「このクライエントにとって何が大事なのか」という心理臨床の軸足は同じです。だからこそ院生は心理臨床の基盤を自分の中に作ることができる(『ベースが身に付いた』)のだと思われます。
修士課程は2年間であり、卒業していく先輩からケースを引き継ぐことも多いため、毎年11月に「引き継ぎガイダンス」を行っています。子どもであっても本人の意思確認から始まり、できる限り安心できるよう、託す立場、託される立場の院生が引継ぎの方法を工夫しています。それでもセラピストとのお別れは来談者にとっては様々なドラマとなり、スタッフの方が来談者の心の力にハッとさせられることも度々です。その場で起きてくる想定外のことを支えているのが、スーパーヴァイズであり、院生同士の信頼関係であり、カンファレンス、非常勤相談員、事務職員を含めた相談室という「場」であると思われます。

「心の健康教育」までを視野に入れた学外実習
公認心理師課程が始まって以来、学部では教育、医療、福祉、司法・犯罪、産業・労働の5分野全ての学外の見学実習を実施しています。大学院では3分野の学外実習があり、教育分野としては学校・教育支援センター、医療分野としては精神科・小児神経科、福祉分野としては児童相談所・児童心理治療施設等、地域の心理職の方々の協力により内容の濃い実習が実現しています。
また、公認心理師の4つ目の業務「心の健康教育」の力を養うため、心理教育の立案・実施を実習に取り入れていることは本学の特徴です。2024年度時点では教育分野で行っていますが、院生は「聴く」だけではなく「何を伝えたいのか」に一所懸命向き合っています。この取り組みは、その場で働く他職種との相互理解のチャンスともなり、多職種連携を学ぶ機会にもなっています。
卒業生の進路・卒業生との交流
「就職は?」とよく聞かれますが、本学の卒業生は、地域の精神科・児童精神科などの医療系、児童養護施設・児童心理治療施設・放課後等デイサービス他の福祉系、教育相談室やスクールカウンセラーなどの教育系の他、不登校支援のNPOで心理職として働いています。非常勤職を希望する場合以外は常勤心理職として活躍しています。卒業後のイメージが具体的に描けるよう、学部では、現場で活躍する先輩を講演会や授業のゲストスピーカーに招き、学部生が卒業生と交流できる場を作っています。身近な先輩から、現場の仕事だけでなく、進学の不安や進路の悩みをどうやって乗り越えたのかを聞き、自ら考える機会となっています。
まだまだ歴史の浅い養成機関ですが、これからも知恵を出し合い、地域で信頼される心理臨床家を育てていきます。