Serial Articles 初心者のためのブックガイド 新装版 こころの天気図 ― 「自分」を知る146のヒント
著者 大和市保健福祉センター 尾崎翔一

本書は全7章から構成されており、文章全体が「話し言葉」でまとめられています。このため、スラスラと読み進めることができ、硬さの抜けたゆるやかな文章がすっと流れ込んでくるような感覚になります。
章ごとのテーマを見ると、「第1章:「私」とは?「あなた」とは?」「第2章:人と人が出会う時」「第3章:男と女―作品に沿って」「第4章:こころ晴れたり曇ったり」「第5章:「秘密」からの合図」「第6章:夢を生きる」「第7章:相談する相談される」といった具合に多彩で、その時々の読者のこころにピンときたものから読み始めてもらえるといいのではないかと思います。
本書の紹介者である私自身は、心理職として人のこころに向き合うと同時に自分のこころとも向き合う場面が多くありますが、こころに目を向けてより深く理解しようとすることは、とても大変な作業だと日々感じています。本書の中には、専門職としてのみでなく、一個人としても読み取ることができそうな人のこころにまつわる面白い話がたくさん織り込まれています。また、読み手によってはハッとするような気づきが得られることがあるかも知れません。ここからは、そんな本書の一部を紹介したいと思います。
『自分が変わるところから、何かが始まる』(第1章:「私」とは?「あなた」とは?より)
みんなやっぱり自分を変えるのがイヤなんでしょうね。自分を変えずに周囲を変えることによって幸福になりたい。だから自分の思う晴れの日が続けばいいと思ってしまう。暴風雨こみで「天気」というものだと実感すれば、それなりに自分で対応することになる。雨なら傘をさすとか、嵐なら雨戸閉めるとか(笑)。
『筋道の立った人生はない』(第4章:こころ晴れたり曇ったりより)
つまずきイコール発展。つまずきが大きいほど発展の可能性も大きい。その希望を持ち続けることです。だから、素晴らしい発展は同時に、大きな苦しみを伴う。その苦しみをちゃんと引き受けること。―そんな中で人は、心を使って「生きる」という大事業をやっていくのだと思います。
心理臨床の場面のみならず世の中の多くの場面で「エビデンス」が大切にされる時代になりました。私自身もその視点は大切にしています。ただ、エビデンスが確立されたはずのアプローチで、うんともすんともいかないケースが心理臨床の世界には溢れています。また、それは皆さんの人生にも当てはまる部分があるのではないでしょうか。そんな行き詰まり感を感じた時、ふと手に取って開いてみると、少しだけこころを軽くしてくれるのが本書かも知れません。今はぼんやりとだけれど「こころの世界」に興味を持っている方や、すでに心理臨床の道を歩み出している方など、さまざまな立場の方に手に取ってもらいたい一冊です。