EAPとはEmployee Assistance Program(従業員支援プログラム)の略で、産業・労働分野の心理臨床実践の一つです。このような従業員向けのメンタルヘルス支援を社内で構える企業もありますが、多くは社外のEAP会社への業務委託により、健康保険組合加入者本人(従業員)とその扶養家族は、外部EAP会社が提供する電話相談やメール相談等の支援サービスを(多くは無料で)受けることができます。ここでは電話相談についてお話しします。

電話相談の構造―心理支援のいろいろな形

 通常の面接相談は一回五〇分、継続性、対面式ですが、私が勤務する外部EAP会社の電話相談は一回二〇分、一回性、匿名性という構造です(外部EAP会社によって構造は異なります)。全国からかかってくる相コ ーラー談者の年齢層は幅広く、相談内容も多種多様です(メンタルヘルスから職場ストレス、子育て、嫁姑問題、ご近所づきあい、恋愛、性格、人生相談まで)。当然、電話で匿名なのでお互いの氏名や風貌もわからないままですし、予約制でもないので、突然かかってきた電話を受けた者がそのまま相談担当者になります。従来の面接相談の構造と異なる新しい形の電話相談は「 心理支援の多ダイバーシティ様性」を具現化したものといえましょう。

電話相談のプロセス―私の場合電話相談のプロセス―私の場合

 電話相談が始まると、五~一〇分くらいまでは訴えを聴きつつコーラーのニーズを把握し、一五分くらいまでにはコーラーの頑張れているところやアドバイスの提案につながるネタを集めます。コーラーの声の調子や息遣いなどから不快にさせていないかに留意しつつ、残り時間を計算しながらうまくネタを引き出す質問をすることは、まさに専門家の腕の見せ所です。そして、一八分ごろからは詰めの段階に入ります。労いつつコーラーの状況に合わせたオーダーメイドのアドバイスなどを提案し、コーラーが満足感を示したら終了です。

短時間で一度きりの一発勝負―難しいこともあるけれど

 二〇分という短時間での一発勝負なので、時間を無駄にせず効率的なやり取りを通して共感や提案をしていく必要がありますが、スムーズにいかないこともあります。例えば、電話の電波状態の悪さや受話器と口の位置のズレによる音声の聴き取りづらさとか、そこに方言もブレンドされると相談内容はほぼ理解不能状態に陥ります(もちろん、負けじと想像をフル活用して理解に努めます)。また、複雑な問題の経緯や状況の説明に時間を要する場合、どうしても共感や労いだけで制限時間になり、仕方なく「申し訳ありません、そろそろお時間になってしまって・・・・・・」との言葉で察していただけるコーラーは切電されますが、この段階で「どうしたらいいですか」とアドバイスを求められると、さぁ大変!
 ネタ集めが十分ではないのでアドバイスの持ち駒はなく、ありふれたアドバイスには当然コーラーの声の反応はイマイチです(・・・・・・あえなく投了)。そんなとき、「これでも専門家?」と自分の力量のなさに突っ込みを入れたくなりますが、めげてはいられません。制約のある状況下でもスキルを極めていくこと、それが専門家の仕事だと思っています。

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