今回は本学会の理事であり、日本臨床心理劇学会理事長、日本リハビリテイション心理学会および日本臨床動作学会常任理事などを務めていらっしゃる針塚進先生にお話をうかがいました。訪問当日は、大学守衛室に筆者の訪問を伝えてくださっていて、研究室ではお茶をいただき、すぐに緊張がほぐれました。また、卒論について「キーワードを書いてみたよ」とA4用紙三枚もの資料を準備してくださっていました。こちらからお願いする前に「録音どうぞ」と言ってくださり、帰りには「駅まで送りましょうか」と言っていただいて……温かくこまやかなお心遣いに、すっかりファンになりました。
⃝高校生の頃から心理学の本を読んでいた
大学では、「カウンセリング」にあこがれて、ロージァズ全集『人間論』(村山正治訳、一九六七)などを読んでいた。心理学の勉強会では学習心理学を学び、また『思考と言語』(ヴィゴツキー著、柴田義松訳、一九六二)を読んで、「思考の発達と創造性」に関心をもった。授業では、「異常心理学」を担当していた精神科病院院長の話に感銘を受け、とくに「神経症」に関心をもった。その中で、「不安や人が怖いなど訴えは、治療の中でいくら話をしても、なかなか転換していかない」という話を聞いて、「神経症の方は視点を変えられないのかな?思考を転換することが難しいのかな?」と考えた。
⃝「神経症者の思考の柔軟性について」
この卒論を進めるにあたって、『神経症と創造性』(ローレンス・S・キュビー著、土居健郎訳、一九六九)に非常に刺激を受けた。また『創造性の教育』(E・P・トーランス著、佐藤三郎訳、一九六六)が大変参考になった。仮説として、「神経症者は強い不安が基底にあるので思考の視点が固着化するのではないか」と考えた。
調査協力者は、神経症者(外来通院者)四五名、大学生一二二名であった。神経症者については、「異常心理学」担当者が院長を務める病院をはじめ二つの病院に依頼して、ずいぶん調査に通った。患者さんと関わるのはこのときが初めてであった。
神経症傾向尺度として、MMPIのHs(心気症)、D(抑うつ)、Hy(ヒステリー)、Pt(神経衰弱)の項目を活用した。尺度をもとに、①神経症群、②神経症傾向高群、③神経症傾向低群に分けて、平均値を比較した。また思考課題として、「創造的思考テスト」(E・P・トーランス)を用いた。①言語性課題(例:もし一日が四八時間だったら、どのように過ごすか)、②非言語性課題(スクイグル法)を実施した。異なる多様なカテゴリーの反応から「柔軟性」を、反応数から「流暢性」を、独特な反応から「独創性」を明らかにした。それぞれについて、本を参考に基準をつくり、三名で評価して得点化を行った。
神経症傾向尺度得点については、神経症群および神経症傾向高群が神経症傾向低群に比べて、有意に得点が高かった。思考の柔軟性に関して、①言語性課題については、神経症者および神経症傾向の高い人は、神経症傾向の低い人より、言語的(概念的)思考の柔軟性は有意に低かった。②非言語性課題については、神経症者は神経症とは言えない人より、非概念的思考の柔軟性が有意に低かった。以上より、おおむね仮説は支持された。
⃝卒業論文と心理臨床とのつながり
「支援を必要とする方が、ものの見方、考え方、捉え方をどのように転換できるか、ということは非常に重要だと思っている。思考(認知)というレベルで変えても……不安な人はついあれこれ考える。情動的なものがそこにはあると思っている」「患者さんと話すときに、どのような文脈で相手が話しているのか、どのような視点でものをみているのかをおさえないと、理解がずれてしまうことがある。相手が自分と同じようにみていると思い込まずに、相手の文脈を確認しようとすることが大切だと考えている」。
先生が大切にされていることをインタビューの際にも感じることができ、とても楽しいひとときでした。
針塚 進(はりづか・すすむ)
一九七二年茨城大学教育学部卒業。一九七七年九州大学大学院教育学研究科博士課程修了。教育学博士。山形大学助教授、九州大学教授、中村学園大学教授を経て、筑紫女学園大学特任教授。成瀬悟策先生から動作法、心理劇を中心に教育訓練を受けた。著書に『臨床動作法の実践を学ぶ』(監修、新曜社)など。