夫婦関係の中で寂しさを感じるとき

 永遠の愛を誓ったはずの夫婦が、実際に結婚生活を始めてみると、次第に一緒にいることがかえって苦痛になったり、寂しさを感じてしまうということは、決して珍しくありません。むしろ、ほとんどの夫婦が経験することだと言っても過言ではないでしょう。ささいな出来事をきっかけに、パートナーに理解してもらえないと感じたとき、支えてほしいのに拒絶されたとき、期待をしていたのに裏切られたとき、自分と同じだと思っていたのにまったく違うということが明らかになったときetc.……そうしたとき、人は他の人間関係では味わったことがない深い寂しさを感じ、「愛されていない」「相手がおかしい」「恋人時代はこんなこと感じなかった」「幸せな夫婦ってこんなはずじゃない」「この結婚は間違っていたのではないか」と考えたりします。

寂しさを伝えることの難しさ、受け止めることの難しさ

 寂しさを感じている人は、何とかそれを分かってもらいたいと思い、相手に伝えることによって寂しさが解消され、絆をもう一度感じたいと思います。そして、落ち着いて素直に「寂しい」と言える人もいるかもしれませんが、言葉にせず察してくれることを期待し、結果的に失望してしまう人は少なくないでしょう。また、寂しさに耐えきれずに怒りをぶつける人もいますし、察してほしい気持ちと責めたい気持ちの両方から皮肉を言う人もいます。
 言われた方は、相手の寂しさを受容し共感的に受け止める余裕があればいいのですが、それは多くの人にとって非常に難しいことです。「寂しい」と言われると「責められた」と感じたり罪悪感を感じてしまい、相手の寂しさを理解して絆が強まるどころか、自分を正当化するような言い訳をしたくなったり、かえって相手から離れたくなったり、相手と言葉を交わすことに不安を感じることもあります。

寂しさを共有するために

 きっかけが何であれ、寂しさは相手に共感的に理解され受け止められることで軽減されたり、解消されたりします。しかし、だからといって相手の対応次第だというわけでもないですし、相手が一〇〇パーセント責任を負えるわけでもありません。寂しさが自分自身の感情である以上、自分で自分を支えて対処しなければならない面もあります。
 夫婦が寂しさを感じたとき、二人の心理的距離を縮めて一体感を得ようとすることは、かえってマイナスに作用することがあります。自分の寂しさを落ち着いて素直に伝えるために、そして相手の寂しさを共感的に受け止めるためには、自分と相手は異なる人間だという前提に立った上で、自分のことも相手のことも大切にする姿勢が必要です。
 夫婦が互いに愛し合い信頼し合っているからといって、寂しさを感じることが無いというわけではありません。寂しさを感じたときに、それを自分自身の感情としてどのように伝えることができるか。そして、相手の寂しさをどのように理解し受け止めることができるか。そうした細やかな対話の積み重ねによって、夫婦の絆はより強い者になっていきます。

参考文献
野末武義(二〇一五)『夫婦・カップルのためのアサーションー自分もパートナーも大切にする自己表現』金子書房
中釜洋子・野末武義・布柴靖枝・無藤清子(二〇一九)『家族心理学―家族システムの発達と臨床的援助 第二版』有斐閣ブックス団士郎(二〇〇六)『家族の練習問題』ホンブロック

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