親との距離

 私立の中高一貫校や県立高校でSC(スクールカウンセラー)をしているので、中学から高校まで六年間 に及ぶ思春期の変化や成長を見ることができます。以前、勤務先の学校で中一生と高三生に「親に言いたいこと」についてアンケートをとったのですが、親に対する距離の違いが如実に表れていました。中学生は「勉強、勉強ってうるさい!」に始まり「お小遣い増やして」「スマホ返して」から「同じことを何度も言わんで」「言われなくてもわかってる!」「子どもだけど子どもじゃない!」等々、親の手を振り払い一人歩きを始める思春期前期のエネルギーが全開という感じです。
 一方、高校生は「学校と塾の往復。家では寝るだけで親との会話がほとんどない」「家と学校が同じ場所になってしまうのは辛い。家では安らぎたい」「学費を沢山使わせたのに普通の大学では申し訳ない」「子どものために生きるのではなく自分の生活を楽しんでほしい」等、親の苦労を思いやれる程大人になっているせいか、中学生の屈託のなさに比べるとやや翳りを帯びていて、親の庇護から離れ自立へと向かう時期の孤独感も垣間見えます。

気持ちを伝える

 「〇〇学部に行きたいと親に言うと将来仕事ないよって切り捨てられた」「〇〇大学以外認めないと言われた」「大学に行く意味がわからないと言うとじゃあ(学校や塾に)送り迎えしなくていいねって」……進路に悩む高校生から、子どもの思いを理解せず一方的に自分の価値観を押しつける親のことが語られますが、親密な関係ゆえのミスコミュニケーションが実は非常に多いのです。
 「進路が合わなかったらどうしよう」「一生が決まってしまうのか」「自分が本当は何をしたいのかわからない」……進路決定を前に色々な気持ちが交錯し揺れるのは自然なことです。でも気持ちというものは言葉にして伝えなければ誰にもわかりません。保護者からはよく「子どもが何も話してくれない」「何を考えているのかわからない」という言葉を聞きます。子どもの気持ちがつかめないまま、自分は適切な寄り添い方ができているのかと、親も内心は不安で一杯なのです。子どもには「言ってもどうせわかってもらえない」という諦めの一方「親なら言わなくても察してほしい」という期待や甘えがありそうですが、切羽詰まった時に感情的に話しても伝わるどころか逆効果です。
 「Iメッセージ」というコミュニ ケーション法があります。「(私は)~と思う・~したい」「(あなたが)~すると(私は)嬉しい・悲しい」 等、自分を主語にして考えや気持ちを伝える言い方です。相手を尊重しつつ自己主張できるので、自他の境界が引きにくい親子の会話の中で意識して使ってみることをお勧めします。「どうしていいのかわからなくて困っている。助けてほしい!」もIメッセージの基本です。

程よい距離の他者

 多くの高校生にとって、親とは一番近くにいながら時に一番遠くに感じる他者であり、どう適切な距離を置くかは自立にとって重要な課題と言えます。進路について親と話す前に、程よい距離の置ける信頼できる大人―親戚・学校や塾の先生・S C―に自分の思いを聴いてもらい整理するのもいいでしょう。「親に自分の気持ちを伝える練習をしたい」と来談してみませんか? 「ただ誰かに聴いてほしい」でも構いません。カウンセラー室で待っています。

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