大学入試制度の混乱

 最近の大学入試制度の混乱は高校生に大きな波紋を及ぼしています。センター入試から新制度入試への変更、英語入試の変更と直前の突然の中止、AO入試制度の変更など受験を準備する側にとっては大変な混乱に巻き込まれています。しかし、どんなに入試制度が混乱しようと、高校生はその混乱を乗り越えて大学進学を目指しているのが現状です。それは高校生だけではなく、多くの中学受験や高校受験を目指す小中学生も、将来よりよい環境で学び、よりよい就職の切符を手に入れるために、受験の渦中におかれています。よい就職とは何か。その進路選択のための価値観の基準は、それが自分のやりたい仕事なのか、自分の興味関心にあった仕事なのか、能力に合った就職なのかなど様々ですが、中学から高校、大学へと学びの段階を進めるにあたって、エスカレータ式に進学できる学校を除けば、多くの場合受験という壁を乗り越えなければなりません。

日本の受験制度―中学から高校へ―

 日本において、高校への進学率は97%に達しています。そして、その高校の8割が普通科です。古くから工業科や商業科等の職業科もありますが、理数科や国際科のような専門領域に特化した学科や単位制の高校も増加しています。高校受験に際しては、学科の学びの特徴を検討する場合があるとしても、将来の進路の検討までは十分になされていません。高校選択の基準は偏差値偏重と言っても過言ではないでしょう。

 海外では、初等教育の段階で将来の職業を見据えて職業学校への進学か、大学等の高等教育への進学への道に繫がる中等学校への進学を真剣に考え、選択がせまられる制度が残っていますが、日本ではどの高校からでも、全ての大学の学部に進学できる道が開かれています。これは素晴らしい制度です。まだ十分に将来の進路選択に検討する力が育っていない状態で、進路の選択肢が狭められていないことは、余裕をもって進路選択に臨めるという良さがあります。しかし、その反面で高校受験の段階では、将来展望はまだほとんどできていないのです。

大学に進学するということ
―高校から大学へ―

 高校卒業後、短大・大学等高等教育機関へ進学する人は、50%を超えています(文部科学省、2018)。

 ベネッセ教育総合研究所の大学生を対象とした調査(207)によれば、進路選択の時期について、〈文系理系を意識した時期〉〈大学の専攻分野を意識した時期〉〈大学選択の時期〉〈職業選択の時期〉について分類した結果、二つのパターンが見出されています。一つは教育学系(男女共通)や女子の医歯薬看護学系統でみられたパターンで、〈文系理系〉→〈職業〉→〈専攻分野〉→〈進学する大学〉です。比較的早い段階で具体的な職業イメージから、その職業に必要な能力や適性をどのように身に着けるかを考えています。もう一つは、人文科学や社会科学、理工学系統の男女及び医歯薬看護系の男子で、〈文系理系〉→〈専攻分野〉→〈進学する大学〉→〈職業〉です。こちらは選択時期が遅く、ゆっくり時間をかけて検討していることが特徴であると報告されています。このことから、比較的仕事の内容がイメージしやすい教育学系統や医歯薬看護系の場合は、職業選択が先にあり、大学での専攻分野も免許や資格などとの関連で早い段階で明確になるのでしょう。

 医師になりたければ、必ず医学部に進学しなければ医師にはなれません。幼稚園の教員になりたければ、幼稚園教員資格を取得できる課程のある養成大学に進学しなければ幼稚園教諭にはなれません。受験の段階で、資格取得を目指す進路を選択する場合には必ず資格取得が可能かどうかを確認する必要があります。しかし、特に資格取得を目指さない就職、いわゆる一般の企業就職を考える場合は、特に進学する学部は問われません。前述のように、一般の企業の場合には、何を専攻したかということよりも、大学段階でどのような力を育成し、社会でどのように生かすかが問われます。すなわち、専門的な知識だけではなく、学時代における様々の経験の蓄積として身に着けた力が問われるのです。

学びの学校段階から労働の社会人段階への移行

 1980年代以降、日本におけるキャリア教育が盛んになった背景には、若年者の早期離職などが問題になりましたが、複雑になった労働社会の問題や高等教育進学における学力偏重の中で、学校段階で培ってきた能力や興味関心をどのように社会人段階へ移行させるかが課題になっています。

 日本の教育段階では、キャリア形成についての学習機会が以前に比べて増えてはきたものの、まだまだ少なく、実際に役立っているかも検証されていません。本来「キャリアとは、人が生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を見出していく連なりや積み重ね」ととらえるとすれば、単に労働する者としての役割だけがキャリア教育の目指す目標ではなく、スーパー(1995)の提唱する、子どもの役割、親の役割、学習者の役割、労働者の役割、市民の役割、家庭人としての役割をどのように生きるかを総合的に考える必要があります。その意味で「社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現していく過程」を「キャリア発達」として、自分らしい生き方をするための模索をする機会を考える必要があります。長い年月をかけて積み重ねる力や能力を、自らの生き方として仕事と社会の役割の中で貢献することこそがキャリア形成なのです。

 大学段階は自分に向かい合える重要な時間であり、それこそが青年期の発達課題です。その意味でも、現代社会における大学受験は、彼らが自分の力を伸ばす場を手に入れる大事な挑戦であると言えるでしょう。

受験における心理臨床家の役割

 学校段階における心理臨床は、教育相談や学生相談の形で展開されています。その援助の視点は思春期・青年期において直面する課題の解決に向けられています。学習上の問題も含めて、親子関係や親から自立の問題、自尊感情、友人との関係から見える自分の弱みなどの問題の解決に向けての援助を考えています。その相談は、進路や進学に関する相談と別に考えられることが多く、心の相談は心理臨床家に相談し、進路や受験に関することは進路指導担当者に相談するということが多いです。しかし、学校段階で発達課題として直面する問題や状況は、将来社会の中でどのように生きていくかという将来のキャリア・プランニングと密接に関係していることを注目しておきたいと思います。したがって、心理臨床的援助の担当者であるスクールカウンセラーも、それぞれの学校段階からの受験が成長のために必要な挑戦であり、その時に抱えている問題解決とともに将来へ向けてキャリア支援の視点も重要であると言えるでしょう。

 日本の受験において、その選択の広さはキャリア選択の視点からみると、キャリア探索の余地が残されているメリットと、キャリア選択の先延ばしが起こっているデメリットがあるかもしれません。その意味でも進路選択に揺れ動く児童生徒たちへの心理臨床家の果たす役割は大きいと言えます。

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