建学の精神に基づく心理学教育

 帝京大学は、ラグビーや駅伝で有名ですが、建学の精神に基づき、「自分流」という教育理念および「実学・国際性・開放性」という教育指針を有しているのが特徴です。医学部や医療技術学部といった実学志向の学部に加え、臨床心理士や公認心理師といった心理専門職の養成も、大学の理念を具現化する営みと位置づけ、大いに力を入れています。
 また、臨床のみならず基礎系の心理学が充実しているのが、本学心理学の特徴です。多様な心理学に対して開かれ、学術研究等を通して国際性にも通じた教育、養成を行うために、一学年定員二〇〇名の心理学科、そして一学年定員一五名の大学院臨床心理学専攻(修士)、定員数名の心理学専攻(博士)を、総勢二四名の教員が担当します。本学での心理専門職としての学びは、まさに様々な心のあり様に開かれた「自分流」の歩みであると思います。

心理専門職をめざしての学部教育

 心理学科では、一年次に臨床心理学概論など、まずは心理学の入門に関する学修から始まり、二年次には研究法や専門分野の講義が本格的に始まります。三、四年次には、ゼミに該当する研究演習がスタートし、各教員の得意とする分野で、研究を自ら行います。
 一年次から公認心理師になるために必要な科目が履修可能ですが、三年次から始まる「公認心理師プログラム」は、「公認心理師の職責」「心理演習III」「心理実習III」からなり、公認心理師を目指す人は必ず履修しなければなりません。このプログラム履修には、口述試験等の選考を通過する必要があります。
 「心理演習III」は三年次、「心理実習III」は四年次に通年で開講されます。心理専門職となるための体験重視で実学志向の内容で、五分野すべての見学中心の実習に加え、附属の幼稚園や小学校で子ども達と生活を共にする体験実習もあるのが大きな特徴です。このプログラム履修時期には、実際にどんな心理職を目指すか、大学院進学のために何を学べばよいか、いったん就職してその後大学院進学も考えたいなど、各々がライフプランを真剣に考えるようになります。その「自分流」の将来をみつめる時間を、私たちは大切にしています。

公認心理師等実習支援室の開設:三名の助教を配置

 そのような心理専門職を目指す学生を強力にサポートするために、公認心理師等実習支援室を開設しました。心理の資格や仕事のこと、今さら聞きにくいことなど、いつでも気軽に相談できる窓口です。なかなか窓口に来られない学生へのきっかけづくりとして、相談促進の週間である「公認心理師フェア」も開催しています。
 学部生はもちろん大学院生も含め、六年間の一貫したきめ細やかなサポートによって、一人一人が興味・関心を深め、「自分流」の心理専門職を目指す志を支えています。助教三名の先生方は皆若手で、迷える学生たちに自然な形で寄り添います。実習で思い通りにいかなかったと涙目で戻ってきた学生も、実習支援室がしっかりとサポートします。

大学院臨床心理学専攻における多彩な臨床教育

 大学院における心理専門職教育は、計一五名の臨床心理士等の有資格者教員が担当します。また附属の心理臨床センターには、三名の有資格者の教員が所属しており、一八名の教員から様々な臨床実践の学びを受けることができます。
 大学院を修了し実際に現場に出て困らないように、臨床実践現場を常に意識し、求められる到達目標を丁寧に確認しながらの実践的学修が、実学重視の本専攻の特徴です。
 特に、実習にとても力を入れていて、医療現場での実習に力を入れながら、教育や福祉といった分野の実習にも取り組みます。現場を知ることはもちろん、実際にクライエントとかかわり、かかわって感じたことや考えたことを、しっかりと内省し言葉にして、そうした心理学の学びと合わせて深めていくか、その他者の心情理解のプロセスを、丁寧に共有していきます。すぐに専門家になっていくのが大学院生ですから、時にはその厳しさを前に躊躇する院生もいます。それも学びの中での大切な一場面と考え、一緒に方向性を考えていきます。
 本専攻は、公認心理師、臨床心理士、そして臨床発達心理士の三つの受験資格取得が可能です。このような学部および大学院は全国的にも少ないと思います。

心理臨床センターでの徹底した実践的体験

 このような大学院の学びは、附属の心理臨床センターでの運営参加、そしてケース担当などの実地体験の積み重ねによって、深まります。センターには、教員三名に加え、非常勤相談員、助手、実習補助員、修練生といった、多様なスタッフが務めています。受付方法や電話の取り方から、丁寧な指導を受け、実際に現場に出て困らないように体験を積み重ねます。
 大学院生は、修士一年の冬から実際に心理面接(ケース)を担当し、学内スタッフからのスーパービジョンを受け、ケースカンファレンスにおいて事例理解を深めます。修士一年次には、現場に慣れずびくびくしていた院生が、担当ケースと正面からしっかりと向き合い、または向き合えない難しさに悩み、修士二年修了時には、謙虚さの中にたくましさを感じるようにぐっと成長することを、何度も見てきました。教員冥利に尽きます。

修了後のサポート、そしてネットワーク

 大学院修了後も修練生としてケース担当を継続することができ、長い期間ケースをじっくりと担当できて鍛えられます。また修了生のためのレクチャーやケースカンファレンスも年一、二回開催し、交流を深めています。本専攻開設が二〇〇一年でしたので、キャリア二〇年近くの修了生もいて、相互に学び合い求人情報を共有する修了生ネットワークがあります。
 修了生は、大学附属病院、精神科病院、クリニック、スクールカウンセラー、教育相談センター、学生相談室、療育機関、児童相談所、児童養護施設、EAP、公務員など、様々な分野で活躍しています。何を学び、どう「自分流」のキャリア形成につなげるか、そのことを皆さんにしっかりと問い、また一緒に考える場が、帝京大学にあります。

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