沖縄と言えば、青い海、明るい陽光、朗らかで素朴な人たちが暮らしている南の島……といったイメージでしょうか。また、人々の交流が盛んで、親族の絆、地域の団結、郷土愛が強いのも、沖縄の特徴と思われているようです。独自の伝統・文化が継承される一方で、沖縄は大きな戦禍を被り、厳しい時を重ねてきました。
 沖縄国際大学は、今から五〇年前、ちょうど沖縄が日本に復帰した年(一九七二年)に設立されました。アメリカ統治下にあった戦後沖縄社会の苦難の道程を踏まえた上で、これからの沖縄の発展に貢献する人材を育成し、地域に根ざした研究や地域連携を行っていくことが、戧立五〇年を迎えた本学の社会的役割です。

臨床心理士と公認心理師

 二〇〇三年に大学院(地域文化研究科人間福祉専攻臨床心理学領域)が設置され、本学において臨床心理士の養成が始まりました。現在、(公財)日本臨床心理士資格認定協会から第一種指定大学院の認定を受けています。三つの面接室と二つのプレイルームを備えた附属施設の心理相談室は、火曜日から土曜日まで開室し、有資格者八名(相談員四名・教員四名)と大学院生が、地域の方々の心理相談や発達検査等に応じています。来談者数は年間約三〇〇人、毎週三~五名程度の新規来談者が訪れます。
 公認心理師の国家資格成立に伴い、学部(総合文化学部人間福祉学科)と大学院でカリキュラムを整え直し、公認心理師の養成もスタートしました。学部と大学院で、実習を含めた所定の科目を修めると、臨床心理士と公認心理師の両方の受験資格を得ることができます。大学院を修了した年に両方の受験が可能なのは、沖縄県では本学だけです。

陪席訓練(傍で見て学ぶ)

 専門職の養成には系統的な訓練が必要ですが、本学の養成プログラムの特徴の一つは、大学院の学内実習で行われる陪席訓練です。心理相談室を訪れた相談者の了承を得た上で、有資格者(相談員・教員)の面接に院生が同席し、幼児から高齢者まで様々な面接場面を間近で観察します。
 相談者の話を聴き関係を深めていく技法、相談者の置かれている状況や心理状態、問題・課題を見立てていく技術など、実際の面接の導入から展開、面接の終わり方まで、傍で観察しながら学んでもらいます。面接終了後、院生と面接者は丁寧な振り返りを行います。段階に応じて、面接記録を取る、状況を見立てる、対応方針を考えるなど、事例に即した学びを深めていきます。
 徐々に力がついてきたら、主たる面接担当は院生が行い、同席する有資格者はバックに控えます。最終段階では、有資格者は面接室から退き、院生が一人で心理面接を担当します。段階的な陪席訓練による養成システムは、院生の訓練効果を上げるだけでなく、相談者に一定の質の心理支援を提供するマネジメントの観点からも有効な方法と考えています。

見極めロールプレイ(気づきから学ぶ)

 修士一年の秋に、基礎的な面接技法が身についているかどうかの確認・評価として「見極めロールプレイ」を行います。これも、本学独自の養成プログラムの一つです。院生は、模擬クライエントと一対一の心理面接を行います。その様子は、ワンウェイミラー越しの別室で教員が観察し、また、ビデオカメラで全て録画します。
 院生は、自分の録画データを基に逐語録や面接所見を作成し、振り返りセッションに臨みます。振り返りでは、院生・教員全員が一堂に会して、まず各自の録画を再視聴したあと、教員から個別に助言・指導を受けます。ビデオカメラの映像は、面接場面をありのままに記録しています。面接室で交わされた言葉だけでなく、クライエントと面接者の姿勢や視線の動きもアップで再生でき、一瞬たりとも逃しません。
 このロールプレイでは、面接技術の習得だけに重きを置いているのではありません。大学院で学び始めて、わずか半年後ですから、面接技法はみな未熟なのです。大切なのは、面接時の自分の心の動きや、相手の気持ちへの気づきです。
 ロールプレイ時は、評価が気になり過度に緊張したり、無我夢中で目先の応答に追われたりし、相手や自分の心のありように目が向けられないことも多いのですが、自分の面接場面の映像を基にした振り返りセッションを通して、院生は多くの気づきを得ていきます。そのことは、院生たちが大学院を修了した後に聞かされることが多々あります。
 実は、このロールプレイで模擬クライエント役を担うのは、本学大学院を修了して現場で中堅として働いている先輩たちなのです。彼らは、かつて自分が受けた訓練プログラムに、今度は指導者として参加し、面接時の感想や評価、院生への具体的な助言を行ってくれます。心理職を養成して現場に送り出し、職場で研鑽を積んでさらに成長した修了生が、再び大学院に来て後進の育成のために力を注いでくれる︙︙。そのような学びの循環が有効に機能していることは、教員にとってこの上ない喜びです。

地域に根ざした養成機関

 修士二年の院生は、年間を通して週一回の学外実習に赴きますが、院生全員と教員二名で毎週二コマ分の時間を充ててグループスーパービジョンを行います。夜遅くまで議論が続くこともあり、消灯を告げる警備員が教室の横で待機していることもしばしばです。
 貴重な現場実習体験を、より深めることができるよう、できるだけ丁寧に大学で振り返りを行って実習施設に送り出したいと思っています。臨床心理士養成の時代から、地域の専門機関には臨床実習施設として協力していただいてきましたが、公認心理師養成とともに学部生の実習が始まり、実習分野も広がりました。忙しい業務の傍ら、快く実習生を引き受けていただけるのも、各専門機関の関係者・心理職のおかげです。
 嬉しいことに、本学大学院修了生が、実習指導担当者になる施設・病院等も増えてきました。地域に根ざした心理職の養成機関として、これからも着実な歩みを重ねていきたいと思います。

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