( はじめに )

 スクールカウンセラーは、今では最も国民に身近な心理専門職となっています。公立の小中学校ではスクールカウンセラーの全校配置が実現しており、心理専門職の実力が最前線で国民に試される状況にあると言えるでしょう。児童や生徒の相談内容は多岐に亘り、現場での感覚では時間が少ないと思うこともたびたびです。

 私自身は、高校を中心に毎年複数校で勤務していますので、高校での話になることをあらかじめお断りしておかねばなりません。したがって「高校におけるスクールカウンセリングでの恋愛相談」と題した方が適切だと思いますが、恋愛相談のみが中心になって相談室を訪れる生徒はそれほど多くありません。思春期という過酷な時期を生き抜く中で、今も昔も恋愛は大人やカウンセラーに相談するよりも、友人や先輩と話しながらお互いに成長していくということなのかもしれません。それでも、悩みが話される中で恋愛の話になることはあります。いくつか学校現場での体験を書いてみますが、プライバシー保護の観点から、相談内容は加工してあることを明記しておきます。

( 駆け出しの時代に経験した相談
事例 )

 私がスクールカウンセラーとして勤務して比較的すぐの頃でした。女子高校生が思いつめた表情で学校の相談室にやってきました。恥ずかしそうにしながら「こんな相談をしてもいいのでしょうか?」と前置きして、「実は今日は好きな男子の誕生日なのですが、お祝いのメールを送ってもいいと思いますか?」と話し出しました。メールを受け取ると何円かのお金がかかる時代でしたので、「嫌いな人からのお祝いメールでお金がかかったら迷惑をかけてしまう」と言うのです。もちろん失恋や相手の男子が周囲に言いふらしてからかいの対象になることへの恐れもある様子でしたが、それはごく普通の反応だろうと思われました。心理の専門職として、この悩みをどのように聴いて、どのように返事をすべきか相当悩んだ記憶があります。

 結局、私は彼女の自信のなさに焦点を当てました。すると、次々と複雑な家庭環境で育ってきたことや、失敗をしないように頑張ってきたことが語られ、自ら生い立ちを振り返って、「だからメールを送るのが怖いんだな」と結論が出たようでした。
「先生は凄いですね。メールを送る決心がつきました」と最後に言われましたが、私は何もアドバイスなどはしていません。彼女自身が、自信のなさという私の指摘からさまざまなことを話しながら考えて自分で結論を出したのです。

 これこそがカウンセリングの理想的な形であることは言うまでもありません。恋愛相談という入り口は、自信のなさやこれまでの生い立ちという別なテーマの置き換えだったと理解できました。

( SNS時代の恋愛模様 )

 SNSは本当に身近なツールになり、LINE やTwitter などを使っている高校生が大半です。落ち込んだ様子を担任の先生に心配されて来室した女子高校生は「最近、彼氏が冷たい」と泣き出しました。どんな彼氏なのだろうと想像していると、非常に遠方に住む相手で、どうやって知り合ったのか不思議に思い訊ねると、Twitter で知り合って、実際に会ったことはないが毎日連絡を取り合っているということでした。

 このような悩みは非常に多くなってきていますが、最初は「会ったことのない人との恋愛って?」と私は戸惑ったものでした。SNSでの繫がりは、IDを削除すればその時点で関係が終わってしまうという独特の脆さも孕んでいます。寂しさから恋愛相手として選んだまではいいのですが、その先が見えないという悩みになりがちです。相談室に登場する人たちは、ほとんどの場合がそもそも学校に馴染めないとか、家庭環境が不安定である人が少なくなく、SNSという別世界で恋愛を楽しむのかもしれません。実際に会うという展開になることもありますが、結果的にデートDVの被害に遭ったり、性的関係だけがあって傷ついて戻ってくることもあります。記憶に新しい座間での無差別殺人事件もTwitterが出会いの場でした。改めて寂しさとSNSは少し危険な組み合わせなのかもしれないと思いますが、私たち心理の専門職は「SNSはもうそこにある」という自覚が必要でしょうし、学校の先生方と一緒に、SNSとの付き合い方を話し合うような企画などを立てて学校で活動するのも大事な仕事だろうと思います。

( その他の恋愛事情とまとめ )

 ここ最近増えているのはLGBTの相談ですが、これは他稿に譲ります。一言だけ述べるならば、その恋愛の形態がマイノリティであるがゆえに当事者の悩みは非常に大きくなるということです。周囲の理解も追い付いていないことがほとんどなので、じっくり彼らの悩みに耳を傾け、最新の情報を知っておくことが必要でしょう。また、「恋愛に興味がない」という話も対人関係の悩みの中で出てくることがあります。「何であんな面倒なことに興味があるのか?」と真剣に問われます。多くの高校生が恋愛に魅了されるので、焦りを感じたり自分は変なのではないか?という気持ちになるようですが、思春期に一過性の問題として恋愛や性的なことに嫌悪感を示す人もいるので、現在その人が感じている苦痛に寄り添うことが大事でしょう。

 他にも、いわゆる共依存関係に陥ってしまって、これ以上の交際に意味はないと思いながらも離れられずに悩んでいる生徒の相談や、アニメやゲームのキャラクター(いわゆる「二次元」)への恋愛が話題になることもあります。自分自身の恋愛観と離れすぎている場合に、人はそうした少し変わった恋愛を軽蔑する発言をすることがあります。

「自分とは関係ないものにしておきたい」という防衛機制の現われであることもあり、学校という集団では容易にそれらが大きく強いものになりがちです。それによって傷ついたり孤独になったりする人がいるということを忘れないようにしたいものです。

 スクールカウンセラーも人間である以上、さまざまな恋愛観を持っていると思いますが、多種多様な人の在り方を肯定する訓練を積んで、また時代の流れに敏感になっておくことで、こうした時代の最先端にいる学校の生徒の相談にも上手に乗れるよう試され続けていると私は感じています。

広報誌アーカイブ