糖尿病者への心理臨床との出会い

 私が糖尿病者への心理臨床に出会ったのは、心理臨床にこれから一歩踏み出そうとする修士一年生のときでした。私が入学した大学院には、糖尿病心理臨床研究会なるものがあったのです。私は「なぜ『糖尿病』の心理臨床?」と興味を持ちました。

糖尿病と心理臨床の接点 ―糖尿病者の人生を眼差す

 その研究会での活動や実際に糖尿病者に出会うことを通して、現在では糖尿病者への心理臨床的なアプローチが非常に意味のあることと感じています。

 糖尿病とは医学的には、膵臓から出るインシュリンの作用不足による内分泌疾患ですが、糖尿病者はそれに対する医療者からの治療を受けるだけでなく、毎日の食事内容やカロリーをコントロールしたり、運動をしたり、自ら血糖値を測ったりと、主体的な療養行動が求められます。

 しかし「ダイエットは明日から!」とよくいわれるように、私たちが自分の食生活を変えることは簡単ではありません。運動するにも日々の生活スタイルをすぐに変えることは難しく、突然「あなたは糖尿病です」と言われても、思うように療養行動に取り組めないと感じる糖尿病者は多くいます。糖尿病者本人も、体のために療養を頑張ったほうがいいと頭ではわかっていても、どうしても取り組めないというケースも多くあるのです。
 では、なぜ取り組むことができないのでしょうか? それについて考えていくと、糖尿病者個々に異なるさまざまな要因が絡み合っていることが見えてきます。例えば、幼少期にケアしてもらった体験が少なく自分を大切にするという感覚が持ちにくい、お腹いっぱい食べないと満たされている感覚を持つことができない、などです。すなわち、糖尿病者に対しては、その人の生活、さらには人生全体を視野に入れ、支援していくことが必要になるのであり、そこに、心理臨床的関わりの意義があると言えるでしょう。

糖尿病と心理臨床の接点 ―関係性を眼差す

 さらに、糖尿病者の療養行動を支援していく上で、その糖尿病者を取り巻くさまざまな人との関係に目を向けることも必要となります。医師、看護師、栄養士など医療者との関係、家族との関係、友人との関係、職場や学校との関係などです。糖尿病者の体はその人だけのものであり、それゆえに療養行動も孤独な営みで、糖尿病者が療養行動にいかに取り組むことができるか、ということには周囲の人との関係のありようが大きく作用してきます。すなわち、関係性の視点を持ち込んだ支援も、糖尿病者に対する心理臨床的アプローチにおいて必要とされていると言えます。

 糖尿病医療の現場において、このような視点の大切さは少しずつ広まってきています。心理臨床の分野では今後多くの医療者と協働しながら、糖尿病者の人生、関係性を眼差した支援が求められると言えるでしょう。

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