SNSカウンセリングの浸透

 みなさんはSNSカウンセリングをご存じでしょうか。文字通りSNSを使ってチャット形式で心理相談・心理カウンセリングを受けることができるサービスです。どの年代でも利用率が高いことから、現在はLINEアプリを使ったものが多く、多くの自治体や相談機関が導入し始めています。日本では2017年に長野県で初めて中高生を対象にした心理相談事業が試験的に行われましたが、そこでは若い人たちが想像以上にSNSによる相談ニーズをもっていることが明らかになりました。その後、新型コロナウイルス感染症の流行によって非接触での相談の必要性が高まったことも重なり、さらに急速にSNS相談の普及が進みました。ただ、あまりにも速いスピードで社会実装されてきたために、一般の人々に正しく知ってもらうための広報や専門家の参入状況などにまだまだ課題があることも事実です。
 下のグラフは、2021年に私たちの研究チームで行ったウェブ調査の結果です。この調査では、SNS相談の認知度を調べるという目的で、10代から60代までの成人614名を対象に「SNS相談・カウンセリング」を知っているか、利用したことがあるかを尋ねました。比較のために、従来から使われている「(対面での)心理相談・心理カウンセリング」と「心療内科・精神科」についても併せて尋ねることとしました。その結果、心理相談および心療内科・精神科についてはどんなものか「知っている」という回答が8割を超えているのに対し、SNS相談は、「言葉はみたり聞いたりしたことがあるがどんなものかは知らない」「その言葉をみたことも聞いたこともない」という回答が3分の2を占めていました。調査から少し時間がたっているので、現在はこれよりも認知度が高まっていると予測されますが、それでもやはり、SNSで心理相談というのがどのようなものかわからないという人は多いものと思われます。

図 各種心理相談の認知度調査の結果

SNS相談の強み

 この調査では、SNS相談・SNSカウンセリングに対してのイメージについても尋ねています。その中でどの年代でも強くもたれていたイメージは「気軽に利用できる」というものでした。そもそもSNS相談が導入された背景には、いじめや虐待、自殺など若い世代をとりまく問題が非常に深刻化している中、電話やメールを用いた従来の遠隔相談では10~20代の利用率が低く、SNS上で助けを求めることが多いという現実がありました。確かに、追い詰められているとき、困っているときにわざわざ相談機関を調べて出かけていくのはとても大変なことです。自宅など好きな場所から好きな時間に、自分のスマホで相談が可能なSNS相談はアクセシビリティの点でとてもすぐれているといえます。さらに、顔や名前を知られることなくチャットのみで相談が可能であるため、自分を晒すことに抵抗がある人や、他者に話しにくい悩みを抱えている人でも比較的相談がしやすい形態といえるでしょう。

気軽さの裏側

 手軽に、生活の中から相談ができるというのがSNS相談の大きな強みですが、もちろんその裏には弱点もあります。そのひとつは、相手の顔が見えないのでどんな人が向こうにいるかわからないというものです。先の調査では、「相談員がどんな人かわからないのが怖い」「チャットでちゃんと気持ちを伝えられるだろうか」という不安の声の他、「どうせ大学生がバイトでやっているんだろう」「マニュアルに沿って機械的に返信してるんじゃないか」などの不信感も記述されていました。「対話相手の顔が見えない」という特徴は、一方では対人緊張を感じなくてすむという良い面も持っているのですが、大事な相談をする相手がどんな表情でどんな態度であるのかが見えにくいとなると、不安を抱くのも当然のことかもしれません。実は筆者自身も、大事なことを話す場である心理相談が果たしてSNSのようなツールで可能なのだろうかと、半信半疑のところがありました。しかし実際に相談員として話をしてみるとまず何よりも、「意外と人と話している感覚がある」「画面の向こうに相談者さんの存在を感じる」という実感をもてたことが驚きでした。よく考えてみれば、LINEで家族や友達とやりとりをするときに「LINEだから相手の気持ちがわからない」と感じることはあまりありません。人間は文字の向こう側に生きた存在をしっかり感じることができるのだという、当たり前のようだけれどすごい力について思い知らされた気がしました。実際には多くの相談事業においてきちんと訓練を受けた相談員が誠心誠意対応していますし、不安に思う必要はないのですが、不安を感じる場合には、その不安も含めて相談員に話してみるのもよいかと思います。

SNSカウンセリングが開くこころの未来

 SNSカウンセリングは、自分を晒しすぎることなく相談ができるため、人に言いにくいことを相談しやすいツールです。また同時に、「わざわざ専門家に相談するほどでもない」と思うようなライトな相談にも適しています。そのような意味で、単なる対面相談の代替以上の役割を担うようになっているのがSNS相談なのです。登場してから現在まで、SNSはますます多くの人に利用されるようになっていますが、その事実こそがSNSが私たちのこころにフィットする場なのだということを示唆しているのかもしれません。

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