自己紹介

 勤続20年の小学校の教師です。臨床心理士と公認心理師の資格を持っています。教師として働いた20年間のほとんどは通常学級の担任として過ごしてきました。ただ、近年は担任を離れ配慮が必要な児童を支援する立場として、ケース会議のコーディネートや問題解決に向けたコンサルテーション、児童との相談活動など、ほぼ心理職のような働きをすることもあります。このような私が、あくまで自分の経験にもとづく少ないサンプルからではありますが、教師と心理職の違いを思いつくまま列挙していきます。ここでの心理職はスクールカウンセラー(SC)とします。また、私の経験の範囲となりますので、主に小学校現場を中心とした教師とSCの違いについて述べていきます。

違い① 日常と非日常

 児童生徒にとって教師は日常でSCは非日常です。児童生徒と教師は朝から夕方前まで一緒に過ごします。SCは毎日勤務するわけではなく、私の勤務する地域では、中学校、高校のSCは週1回の勤務、小学校では月1回の勤務が多いです。勤務時間も10時30分からと児童生徒と接する時間は教師と比べると圧倒的に少ないです。週1日勤務のSCでも、児童生徒にとっていつもいるという存在ではないでしょう。ただ、心理職はクライアントにとってそもそも非日常的な存在であり、その非日常性がSCにとっては仕事のしやすさにつながっていると推察します。児童生徒にとっても非日常的なSCは、学校側の人という認識が薄く、相談しやすい存在で貴重です。

違い② 距離が近いと遠い

 児童生徒にとって教師は距離が近師は過ごす時間が多く、授業とそれく、SCは遠いです。児童生徒と教以外を合わせるとコミュニケーションの総量は膨大です。SCはカウンセリングなどで直接関わっている児童生徒でも、週や月に1度の面接時間のみです。関わっていない児童生徒に至っては、SCの顔と名前と職種や仕事内容を把握しているかも定かではありません。児童生徒にとってはいろんな距離感の大人が混在していることが安心につながります。児童生徒と遠い距離のSCの存在は学校にとって貴重です。

違い③ 集団と個人

 主として、教師は集団、SCは個人を扱います。教師は、学級や学年、学校全体など集団に対して話をしたり、授業をしたりします。集団の扱いに長けています。SCは困り感を抱いた個人の扱いに長けています。それぞれ得意分野が違います。教師はすべての児童生徒に対する予防的な1次支援が得意です。一方、リスクのある児童生徒に対する2次支援や3次支援は不得意な場合が多いです。そのような場合、教師は有効な手が打てず個人を扱う専門家のSCに頼ります。困り感を抱く児童生徒、特にエネルギーを外に向けて発散できない児童生徒にとってSCは救いです。

違い④ 指導と支援

 児童生徒に教師は指導、SCは支援をします。教師は、学級や学年、学校全体の秩序の安定を望み、児童生徒に対して上の立場から指導することが多いです。SCは、個人の困り感の解消を望み、特定の個人に対して下の立場から支援します。それぞれの望みとアプローチの仕方が違います。教師も指導一辺倒では立ちいかないことには気がついており、支援が重要であることは知っています。実際、指導より支援を重視する(したい)教師は増えています。教師がSCから支援について学ぶことは多いです。

違い⑤ 短期的視点と長期的視点

 教師は短期的視点、SCは長期的視点に立ち問題解決を目指します。教師は、問題が起こるとすぐに解決したがります。すぐとは、即日や2〜3日以内を意味します。1カ月も問題が解決していないと、問題が長期化していると考え、あわてます。それは、問題をすぐに解決しないと保護者からクレームが来たり、同僚から非難の目を向けられたりと外部からの重圧があるからです。また、児童生徒のために問題を早く解決してあげたいという教師の善意もあります。SCは(流派に寄るでしょうが)、すぐに解決を目指すよりも、期間を定めず児童生徒が回復するのを「待つ」ことが多いように感じます。教師にとって、それが無策と映るときもあります。

違い⑥ コンサルティとコンサルタント

 教師はコンサルティ(相談する側)でSCはコンサルタント(相談される側)です。教師が不得意な2次・3次支援について、心の専門家であるSCに相談し、助言を受けます。教師からSCの見方や支援方法に表立って異議を唱えることはありません。教師はSCに対して心の専門家としてリスペクトしています。一方、児童生徒のことがよくわかっているのは日常をともにしているのは私(教師)である、という自負もあります。SCの示す方針やアプローチに諸手を挙げて賛同することができないこともあります。教師が欲しているのは、SCからの具体的な助言や明確な方針であることが多いです。明確な助言を述べるSCは教師から重宝されます。ただ、SCがそのような断定的な物言いをできない、したくないということは、私は臨床心理を学んだのでおぼろげに理解できます。しかし、多くの教師にとってはそうではありません。私も臨床心理を学ぶ以前は理解できませんでした。教師の立ち位置やニーズを的確に把握しつつ、自らの専門性を発揮できるSCは学校現場から大きな信頼を得られているように感じます。

おわりに ―違いを踏まえて

 SCは非常勤で学校に一人の職です。学校はSCにとって完全アウェーです。やりづらいだろうなと端から見ていて思います。教師であり臨床心理を学んだ私のような人間が、教師とSCのパイプ役としてもっと機能する必要があるのだと思います。SCは児童生徒にとって非日常で支援的な存在でとても貴重です。不登校児童生徒数の増加など現在の学校現場にはさまざまな課題があります。そのような現状において児童生徒にとってSCは必要不可欠な存在です。SCはじめ心理職の方々が学校現場でその専門性を最大限発揮できる環境を整えるために、私も尽力していきたいと考えています。

広報誌アーカイブ