睡眠専門外来には不眠のほか様々な睡眠の問題を抱えた方が来られます。受診するとまず睡眠や日中の眠気に関するアンケートが行われ、その後睡眠専門医の問診により、鑑別診断や追加検査、他科紹介などが検討されます。さらに睡眠や眠気の客観的な指標として、睡眠中の脳波や筋電図、呼吸状態などを測定する終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG検査)や反復睡眠潜時試験(MSLT)により診断が確定します。
睡眠障害は不眠症、睡眠関連呼吸障害、中枢性過眠症、概日リズム睡眠覚醒障害、睡眠随伴症、睡眠関連運動障害に大別され、100種類近くの非常に多様な診断分類があります。たとえば睡眠時無呼吸症侯群は、睡眠中に気道が狭まったり、脳の呼吸命令が弱まったりして呼吸がうまくできなくなる病気で、いびきや繰り返す呼吸停止が特徴です。睡眠の質の低下から日中の強い眠気が生じ、作業ミスや事故の確率が高まります。肥満が主な原因ですが、扁桃肥大や心血管疾患などが原因のこともあり、当院では精神科、呼吸器内科、耳鼻科、歯科などの複数の診療科が連携して治療を行っています。
一方で、睡眠障害の治療には心理学的な視点も重要です。たとえば朝起きられず授業中に居眠りするという訴えからは過眠症を疑いがちですが、実は悩みがあって寝付けず昼夜逆転していることもあります。また神経発達症が背景にあると、記憶処理の特徴から睡眠の質が低下し、神経伝達物質の調節不全により日中の眠気が強まる場合もあります。このため睡眠問題が主訴の患者さんでも、必要に応じて心理検査や心理面接、発達歴の聴取を行います。
不眠症の治療
睡眠には量と質、リズムの3要素があり、日本人は世界でも睡眠時間が短く睡眠不足の方が多いです。健康のためには中高生は8〜10時間、成人は6〜8時間が睡眠時間の目安ですが、みなさんはいかがでしょうか。また夜の睡眠だけに目が向きがちですが、実は日中の生活習慣の見直しで睡眠休養感が高まります。朝は一定の時刻に起きて太陽の光を浴び朝食を摂り、日中はしっかり活動して必要以上に横にならず、夜更かしの習慣を避け睡眠・覚醒リズムを整えることが大切です。
不眠症は最多の睡眠障害で、寝つきの悪さや睡眠維持の困難に加えて、日中に倦怠感や集中力低下などの不調が現れる病気です。治療は薬物療法だけでは不十分で、生活の見直しや不眠に対する認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy forInsomnia; CBT-I)が重要であり、CBT-I は今後不眠治療の第一選択になる可能性があります。CBT-I では、睡眠記録をもとに行動や考えを振り返り、睡眠スケジュールを調整します。医師や心理士、看護師、作業療法士など職種を問わず実践できる技法であり、普及が期待されています。
睡眠医療に関わる上での心理士の役割は、生活環境や個性、考え、感情を共感的に理解し、絡み合った問題を様々な視点から解きほぐしていくことです。症状だけでなく、一人ひとりの人生を読み解く視点が大切だと考えています。表面に現れている不眠症状の奥には、自分だけではなく家族のこと、過去や未来のことなど、思いがけない心の問題が隠れていることも多いものです。こういったことに思いが至ると、睡眠への過度のとらわれが緩むことがあります。心理検査や心理面接を通して見立てを深め、より良い支援に繋げていくことも心理士の大事な仕事です。