昨年4月からクリニックで働き始め、いくつかのケースを担当しておりますが、初めて会うクライエントとの関係づくりが最も難しいと感じます。クリニックを訪れる大半は今まで一度もカウンセリングを受けたことのないクライエントであり、そのようなクライエントにカウンセリングがどういったものか、心理士とはどういう存在なのかということを分かってもらうまでには時間が必要です。
あるクライエントから初回面接で「頼ってもいいんですか?」と聞かれたことがありました。誰かに頼る、相談する、支援を受けるということに抵抗があるクライエントは私が想定していたよりもずっと多いと感じます。そもそも自分が支援を受けられることを知らなかったり、あるいは自ら拒否していたりとその理由は様々ですが、安心して頼れる存在がいなかったことで目の前の心理士に全てを話してもいいのだろうか、頼ってもいいのだろうかという不安が生じていることが伝わってきます。このような、今まで自ら進んで誰かに頼ることをしてこなかったクライエントに対して、カウンセリングの場で心理士が頼っていい存在であるということを示す難しさを日々感じております。
人は生きていくうえで誰かに頼らなくてはならない場面が必ず生じてきます。しかしながら、誰にも頼らず自分の力で解決してきたクライエントは頼り方が分からないといった困難に直面します。一人では解決が難しい問題をそれでも一人で解決しようという時には誤った選択をしやすく、苦しい状況にあるクライエントがさらに苦しい状況に追い込まれることがあります。実際に、安易な解決策を求めた結果、自分や周囲の人を傷つけるようなことをしたり、悪意のある人につけ込まれたりといったケースもありました。
カウンセリングの場では、ほとんど話さないクライエントも全く話が止まらないクライエントもいます。それぞれ抱える悩みは違っていますが、どのクライエントも自分の力ではどうにもできない困難に直面し、どうにかしたいと思いながらどうしたらいいか分からず、大きな不安を抱えていることは共通していると考えます。そのため、まずは一緒にその問題を考えたいと思っていることを伝えることが大事だと私は考えています。そして、クライエントが抱える困難を共有し、どうしたらいいか一緒に考え、ともに立ち向かっていきたいという思いが伝わった時に、信頼関係が確立されたと私は感じます。なかなかうまくいかないと思うことも多々あり、特に今まで積極的に誰かに頼ったことがないクライエントに対しては根気強い関わりが重要だと感じます。
クリニックで働き始め、カウンセリングを続けていくなかで、私はクライエントが自らの苦しい気持ちを素直に話せるようになることに心理士としてのやりがいを感じております。まだまだ駆け出しですが、これからも不安を抱えるクライエントに心理士が安心して話すことができ、頼っていい存在であることを示せるよう心掛けていきたいと思います。
