日系人とは? その多様性

 「日系人」という言葉を聞いて、皆さんはどのような人を思い浮かべるでしょうか。近年ではスポーツ選手や作家、歌手、俳優、政治家など様々な分野で日系人が活躍しています。日系人とは、日本から海外へ移住した人々とその子孫を指します。1885年に日本とハワイ王国の間で「移民協約」が結ばれて以来、多くの日本人が世界各地へ移住し、世代を重ねてきました。現在、日系人が最も多く暮らす国はブラジルで、アメリカがそれに続きます。今回は私が暮らすアメリカに住む日系人、日系アメリカ人に絞ってお話しします。一口に日系アメリカ人と言っても、歴史や文化的背景、世代、言語、日本とのつながりはさまざまです。しかし、彼らとのセラピーで比較的共通して見られるのが「自分らしく生きるとは何か」という問いです。複数の文化や価値観の間で生きる日系アメリカ人にとって、この問いはアイデンティティの探求と深く結びついています。

日系アメリカ人の子どもたちの背景にある歴史

 日系アメリカ人の場合、この問いには差別や排除の歴史が深く関わっています。その代表的な出来事が第二次世界大戦中の日系人強制収容です。当時、約12万5千人の日系アメリカ人が、アメリカ市民であっても強制収容され、収容所での生活を余儀なくされました。この世代は、現在プレイセラピーに来る子どもたちにとって、曾祖父母の世代にあたります。しかし、近年のトラウマ研究では、このような歴史的な出来事の影響が次世代へ受け継がれる「世代間トラウマ(intergenerational trauma)」が注目されています。日系アメリカ人コミュニティにおいても、強制収容の経験が家族関係や養育態度、価値観を通して次世代へ伝達され、強制収容を直接経験していない子どもたちのアイデンティティ形成や心理的健康に影響を与えることが指摘されています。

モデル・マイノリティ神話

 1960年代、日系アメリカ人は中国系アメリカ人とともに「モデル・マイノリティ(模範的少数派)」として紹介され、メディアは彼らが高い教育水準や所得を得ていることを強調しました。しかしこの裏には「アジア系アメリカ人は成功しているのだから、人種差別は大きな社会問題ではない」という考え方を広め、制度的人種差別への問題提起を弱める意図がありました。しかしこの神話は現在も残っており、日系アメリカ人の子どもたちは、「勉強ができるはず」「従順なはず」といった期待を向けられることがあります。その結果、実際に抱えている彼らの苦悩や差別経験が見えにくくなることもあります。

日系アメリカ人の子どもへのプレイセラピー

 日系アメリカ人の背景は多様であり、「日系アメリカ人の子どもにはこのアプローチが効果的」と一概に言うことはできません。一般的には、アジア系クライエントはセラピストを「専門家」や「先生」と捉える傾向があるため、概念やスキルを具体的に教える認知行動療法(CBT)のような指示的アプローチを好む場合があると報告されています。一方で、差別やモデル・マイノリティ神話による過度な期待を経験してきた子どもの中には、「ありのままの自分」を受け入れてもらえる受容的な関係を求める場合もあり、そのようなケースでは非指示的なアプローチが有効となる可能性があります。しかし、どの理論やアプローチを用いる場合であっても、子ども一人ひとりの文化的背景やアイデンティティ、家族の価値観を理解し、それらを尊重した文化的配慮を実践することが不可欠です。

待合室・プレイルームへの文化的配慮

 子どもが建物やプレイルームに入った瞬間に「ようこそ」と迎えられていると感じられる環境づくりは重要です。例えば、待合室の写真や絵本にアジア人が登場するか、プレイルームにアジア系の人形や日本食を表現できるおもちゃがあるかといった配慮は、子どもに「ここにいていいよ」というメッセージを伝えます。ある研究では、文化的配慮がなされたプレイルームでプレイセラピーを受けた子どもの方が、文化的配慮が十分でないプレイルームで遊んだ子どもより、自身の文化に関連したテーマをより多く遊びの中で表現したと報告しています。これは、プレイルームの環境が子どもの自己表現や文化的アイデンティティの探求に影響を与えることを示唆しています。

システム的視点

 差別の歴史の中で、日系アメリカ人はコミュニティを形成し、互いに支え合いながら生き抜いてきました。そのため、日系アメリカ人の子どもや家族を深く理解するには、システム的な視点が重要になります。発達心理学者のブロンフェンブレンナー(Bronfenbrenner)の生態学的システム理論は、子どもの行動や感情を、家族、学校、コミュニティ、社会制度、文化、そして歴史的出来事との相互作用の中で理解する視点を提供してくれます。この視点は世代間トラウマを理解し、文化的に配慮したアセスメントや介入を行う上でも欠かせません。例えば、ある日系アメリカ人の子どもは、家庭では日本語を、学校では英語を話しているかもしれません。保護者と学校は子どもの文化的背景について共通理解を持っているでしょうか。親が職場で経験している差別が子どもに影響しているかもしれません。また「アジア人は勉強ができる」といったモデル・マイノリティ神話に基づく期待を子どもが周囲から受けていないでしょうか。こうした情報をインテークや保護者面談、学校との連携を通して収集することが、文化的に配慮したプレイセラピーの重要な基盤となります。さらに、このような文化的視点を持つことで、子どもがプレイセラピーの中で自身の文化的経験やアイデンティティを表現した際に、それを単なる遊びとして見過ごさず、「文化的機会(Cultural Opportunity)」として捉えることができるようになります。そしてプレイセラピストは、その表現に込められた意味を丁寧に理解し、子どもとの関わりを深める貴重な機会として活用することができるのです。

おわりに

 日系アメリカ人の子どもと家族を理解するためには、多角的な視点と幅広い知識が求められます。ある大学院生から、「一人ひとりの子どもと家族をきちんとサポートできるプレイセラピストになるには、心理学だけでなく、歴史や政治、宗教や哲学まで学ばなければならないようで気が遠くなる」と言われたことがあります。確かに、多くの学びが必要ですが、「この子どもを理解したい」「この家族を支えたい」という思いが、学び続ける原動力になります。そして一人ひとりの子どもとその家族は、私たちの視点を広げ、新たな気づきを与えてくれる、かけがえのない先生でもあるのです。

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