当事者に役立つ心理教育 過覚醒という守り神
とある講義での雑談
大学にて講義をしていると、寝ている学生に遭遇します。その際に「グッドルッキングガイの先生の講義にも関わらず、何てけしからん!」とは言いません。その代わりに、「寝ている学生は好きです。なぜならゆっくり眠れるということは、私に対して安心感を抱いてくれているからです。だから寝ている学生を見ると私は幸せな気持ちになります」と話します(すると、寝ていた学生が起きだすというパラドックス)。
続いて、「仮に皆さんの大学が戦争地域にあるとすると、皆さんはゆっくりと眠ることはできますか?」と尋ねます。すると、学生らは首を振ります。学生らも戦禍で安易に寝てしまうと生存確率が下がることを理解しています。銃声や空襲警報に対して過敏に反応する方が、戦禍を生き抜くうえでは適応的な状態です。このように、危険に備えて脳が警戒を続け、その指令によって身体も緊張し続ける状態が過覚醒です。常に交感神経が高ぶり、心身が“闘争——逃走反応”の態勢にあるともいえます。そのうえで学生には、「ゆっくり安心して眠れることは幸せなこと」と伝えています。
過覚醒の役割とは?
先に述べたように交感神経が亢進した状態が過覚醒です。しかし、危機が過ぎ去ったあとにも、生き抜くうえで必要だった過覚醒が維持されることがあります。慢性的なストレスにさらされると、恐怖や不安に関わる扁桃体が活性化し続けます。一方、思考や判断、衝動のコントロールを担う前頭前野の働きが弱まりやすくなります。これらは、戦禍を生き延びるために最善な脳(生存モード)に適応した結果です。戦禍では落ち着いて考えることよりも、危険をすばやく察知して即座に反応するほうが重要だからです。これはあなたの脳と身体が、「あなたがもう二度と同じ被害にあわないように」しっかりと守ってくれている状態です。強力な守り神と言っても過言ではありません。
脳と身体(守り神)による誤作動
過覚醒の状態では、同じ被害にあわないように常に警戒しているため、心も身体も休まらない状態が続きます。そのため、リラックスできない、刺激に敏感になる、ささいなことにも驚きやすい、眠りが浅く寝つけない、イライラして落ち着かないといった自律神経の調整不全がみられます。また、人との関係にも影響が及ぶことがあります。たとえば、信頼できる人と信頼してはいけない人との見分けが難しくなり、「誰も信じてはいけない」と感じてしまうことがあります。そのため、人間関係から距離を置いたり、逆に人に対して攻撃的になったりすることもあります。これらの症状は、今現在、脅威がないにも関わらず、「まだ危険がある」と認識してしまう脳と身体(守り神)による誤作動が引き金になります。
過覚醒へのケア
過覚醒は、あなたを苦しめるものとしてあるのではありません。そこには、これまであなたを守ろうとしてきた働きがあります。そう考えると、自分の中にある過敏さや緊張に対して、少しだけ見方が変わるかもしれません。過覚醒へのケアでは、危険を見張り続けてきた脳と身体(守り神)をやさしく思いやり、ねぎらい、いたわりの気持ちを向けてあげることが役立ちます。「今は大丈夫だよ」「ここは安全だよ」「これまで守ってくれてありがとう」と、脳と身体(守り神)に言葉がけすることも有効です。自分の内側で懸命に働き続けてきたその守り神に、少しずつ安心を届けていくことが、過覚醒へのケアでは大切になります。