特集01: 心理臨床と発信 心理臨床学会の発信方法―― 発信する広報から聞く広報へ
著者 第8期広報委員会/岐阜大学教育学部 松本拓真
心理職はたいてい発信が苦手です。研修や講演を頼まれるのが嫌な人も多いですし、自分が心理職であることさえプライベートでは明かしたくない人も少なくありません。そのような心理職の広報について、前項の『心理臨床の広場』についてのアンケート結果を受けて広報委員会の委員として私が考えたことをお話ししたいと思います。
そもそも広報とは?
「自己PR」とよく言いますが、PRは何の略かご存じでしょうか。もとはパブリック・リレーションズで、主体と対象の関係を構築し、維持することを指します。つまり広報の役割は、関係づくりなのです。私たちに身近な「広報」ですが、意外に知らないことも多いのではないでしょうか。実は専門家の間でも、近年のテクノロジーの変化によって広報の捉え方が大きく変わってきています。日本広報学会は2023年にプロジェクトチームを作り、広報の新しい定義を定めました(詳細はhttps://www.jsccs.jp/concept/)。
組織や個人が、目的達成や課題解決のために、多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって、社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能である。
この短い定義には、さまざまな意味が含まれています。商品を買ってもらう、会社のイメージを良くする、といった短期的な影響を重視する考え方から、目的達成や課題解決といった中長期的な影響を見据える必要が出てきたことを示しています。「社会的に望ましい」という言葉には、独りよがりにならないよう注意を促す意味があります。
また、コミュニケーションをわざわざ「双方向」と強調しているのは、SNS活用により対象の意見を集めやすくなり、主体がすぐに自己修正を求められるようになった背景があるからです。これらは心理臨床の広報を考える上でも大変示唆的だと私は感じます。
目的の不明瞭さ
本誌は広報誌であり、当学会の目的達成や課題解決に資するものです。しかし、当学会の広報の目的や、いま直面している課題とは何でしょうか。学会の定款には「心理臨床の業務に携わる者相互の協力により、心理臨床学に関する研究、調査及び普及啓発等の各種事業を行い、心理臨床学の健全な発展と国民の心の健康増進に寄与することを目的とする」とあります。その目的を果たす上で、『心理臨床の広場』が担う役割は、まだ十分に確立されているとは言い難いのではないでしょうか。
会員へのコミュニケーション媒体としては学会誌や大会という場があるため、本誌には、現時点で学会員でない人へのアプローチが期待されていると推測できます。高校生や大学生は未来の会員であり、新しい人たちの参画は心理臨床学の健全な発展につながるでしょう。また、心理臨床学の知見を活用する人々にアプローチすることも、国民の心の健康増進に寄与すると考えられます。近年では心理職の雇用や待遇の問題から国民の心への悪影響も懸念されているため、多くの人に心理臨床学の可能性を感じてもらうことも取り組むべき課題でしょう。
SNS時代に雑誌・文字であること
会員外の多くの人にアプローチするという目的に対して、紙媒体(Web版もありますが)であることや、文字中心の内容であることは再考の余地があります。前項の調査では、紙媒体の郵送に対する否定的な意見も多く寄せられました。また、SNSを積極的に活用すべきではないかという直接的な意見もありました。
この調査では普段使用しているSNSも尋ねています。多様な回答が見られたため、SNSの「種類」よりも、使用しているSNSの「数」に注目して分析しました。SNSの種類の多さと『心理臨床の広場』への感想のクロス集計を行ったものが表1です。注目していただきたいのは、左から2列目の本誌への肯定的な感想を示す部分です。SNSを使用していない人は約半数が本誌を「面白い」と答えていますが、多くの種類のSNSを使用している人では約3割にとどまります(カイ二乗検定で有意)。この結果だけで判断するのは危険ですが、SNSを積極的に活用して情報を得ている人は、雑誌・文字中心の本誌には興味を持ちにくい可能性があります。
公式SNSアカウントを持とう
今後の心理臨床学の発信は、受け手が受け取りやすい方法を積極的に取り入れていく必要があります。HPに情報を載せ、訪問を待つだけでなく、受け手が普段使っているSNSに届かせる姿勢が求められます。媒体だけでなくコンテンツも、長い文章から写真や動画などへのシフトが必要でしょう。
シフトを進めていくにあたって、何を発信するか、誰がどのように決めるかという課題は残ります。学会の大会を判断の場の一つとして、最先端の価値ある内容を含む発表をコンテンツ化していくことが現実的だと私は考えています。
SNSの活用は、ただ届きやすくなるだけではありません。冒頭で述べたように、最近の広報は双方向コミュニケーションです。公式SNSアカウントを持ち情報発信をすれば、コメントや転載数などから即座にフィードバックを得ることができます。待遇改善などの問題でも、ユーザーの求めている声を聞かなければ、仕事につなげることはできません。これからの広報は、発信する広報から〝聞く広報〟へとシフトすることが大切ではないでしょうか。そもそも、私たち心理職は「聞くこと」の専門家だったはずなのですから。
